監修者:大隅識文
株式会社IPPO共同創業者/取締役
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オフィス・事務所を移転する際に注目する費用といえば毎月支払う賃料ですが、いざ契約するときに敷金が高くて驚いた経験がある方もいるのではないでしょうか。
敷金について理解していないと、退去の際にトラブルが発生する可能性があります。本記事では、オフィス・事務所の敷金について解説しています。
本記事は居抜きによるオフィス移転仲介を手掛ける株式会社IPPOの「宅地建物取引士」資格保持者によって、監修されています。
この記事の目次
敷金・保証金とは
敷金・保証金とは、貸主(オーナー)に契約時に支払う預託金です。敷金の定義については、改正民法622条で以下のように定められています。
- 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
一 賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。 - 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合
借主(テナント)が賃料の滞納や、物件を損傷させた場合の修繕費として充てられます。
敷金と保証金との違い
敷金とは賃借人が賃貸人に交付する債務保証担保のことで、保証金は金銭消費貸借です。
法的には敷金と保証金は前述の通り別物ですが、建物賃貸借契約では敷金と同様、保証金も債務保証担保と規定している点から現在では同じ意味合いで使用されています。
項目 | 詳細 | 保証金 |
---|---|---|
敷金 | 料の○ヶ月分とされることが多い。賃料が改訂された場合は敷金の額も変動する。 | 債務保証担保 |
保証金 | 坪単価や㎡単価で決めることが多い。保証金の額が変動することはない。 | 金銭消費貸借 |
法律の観点では、賃貸人に所有者としての地位に変動があった場合は、敷金は新所有者に必ず引き継がれます。
一方で、保証金は旧賃貸人から新賃貸人へ返還義務が引き継がれていない場合、賃借人は保証金の返還請求を新賃貸人に請求できません。
保証金で預ける場合は、契約時に内容の詳細を確認しましょう。
敷引制度とは
敷引(しきびき)制度とは、関西地方や九州地方など西日本の商慣習で、退去時に敷金や保証金の一部を返還しない特約です。
敷引特約の有効性については、過去何度か裁判が行われていますが、2011年3月24日の最高裁判所の判決では「高額すぎるものでなければ敷引契約は有効」とされています。
この判例では、敷引金の金額が賃料の2倍〜3.5倍程度で、その他礼金などの支払いがなかった事案のため、「消費者契約法第10条に違反しないものとし、有効」という判決が出ました。
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
賃貸借契約書に特約事項について明記されていない場合は無効となります。
契約時に敷引きの文言がないか確認をしましょう。
オフィス・事務所の敷金相場とは
オフィス・事務所の敷金相場は賃料の3〜12ヶ月です。賃借面積や貸主によって相場が異なります。
坪数 | 賃借面積毎の敷金相場 |
---|---|
10〜40坪 | 3〜6ヶ月 |
50坪以上 | 6〜12ヶ月 |
貸主 | 賃借面積毎の敷金相場 |
---|---|
個人オーナー | 3〜6ヶ月 |
手デベロッパー | 6〜12ヶ月 |
広いオフィス・事務所や、大手デベロッパーのオフィス・事務所の場合は、敷金が6〜12ヶ月かかる場合が多いと覚えておきましょう。
オフィス・事務所の敷金・保証金が高い理由
住宅の場合、敷金は1〜3ヶ月が相場ですが、それに比べてオフィス・事務所の場合は3〜12ヶ月と高額です。
オフィスは入居テナントそれぞれの使用用途によって、内装や設備工事などを入れます。
万が一借主が賃料を支払わず連絡がつかなくなってしまった場合など、貸主には多額の負担がかかるかもしれません。
そのための担保として、オフィス・事務所の敷金・保証金の相場は高く設定されています。
オフィス・事務所の敷金・保証金はいくら返ってくる?
高額な敷金・保証金ですが、賃料未払いや損傷がない場合は全額返ってくるのでしょうか。返還時期と返還額について解説します。
敷金・保証金の返還時期
民法では、以下いずれかの場合に敷金・保証金を返す債務が発生します。
- 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき
- 賃借人が適法に賃借権を譲渡したとき
つまり、原状回復が完了し、借主が貸室を貸主に返還した後に敷金・保証金の返還債務が発生します。
オフィス・事務所から退去した際に返還されるわけではありません。
返還時期を考えると、移転先の新オフィスの契約時の資金として流用することは難しいため、注意しましょう。
しかし、この規定は任意規定とされているため特約が設けられている場合は特約が有効となります。
敷金・保証金の返還額計算式
オフィス・事務所の敷金・保証金は、賃料未払いや損傷がない場合でも、全額戻ってくることはほとんどありません。
返還される金額の計算式は以下の通りです。
返還される敷金・保証金 = 敷金・保証金 – 償却費 – 原状回復費
償却とは
敷金・保証金から無条件に差し引かれる費用のことで、前述した「敷引制度」と同様です。
償却費の相場は以下の通りです。
項目 | 償却内容 |
---|---|
敷金 | 賃料の1〜2ヶ月分 |
保証金 | 保証金の10〜20% |
償却は、貸主に対する礼金や更新料がない場合の更新料免除の謝礼などの意味合いがあります。
法的には、保証金の場合は金銭消費貸借のため有効とされ、敷金の場合は無効とされます。
しかし、敷引きが最高裁で一部認められたことによって、賃貸借契約書に記載されている内容が優先されるという考え方が一般的になりつつあります。
敷引きと同様、賃貸借契約書の特約事項に明記されていない場合は無効となるため、契約時に内容を確認しましょう。
原状回復費用とは
原状回復費用とは、退去時の原状回復工事の際にかかる費用です。
業者の選定から費用まで借主(テナント)側の責任で行うC工事と、貸主(オーナー)が選定した業者で工事を行い費用は借主(テナント)負担のB工事、貸主(オーナー)が業者選定をし、費用も貸主(オーナー)負担のA工事があります。
原状回復をしなければならない箇所や、どのような状態に戻して返却しなければいけないかは賃貸借契約書に記載があるので確認しましょう。
オフィス規模 | 坪単価 |
---|---|
小規模オフィス・事務所 | 3〜5万円 / 坪 |
中規模オフィス・事務所 | 4〜8万円 / 坪 |
大規模オフィス・事務所 | 8〜12万円 / 坪 |
※金額は原状回復の内容やビルグレードなどによって大きく変動します。
退去費用を削減するコツ
退去時に必ずやらなければいけない原状回復工事ですが、退去費用を削減する方法はあるのでしょうか。
原状回復工事業者の相見積りを取る
複数見積りをとって比較してから依頼することが大切です。
1社のみの依頼でそのまま進めてしまうと、適正な金額かどうかの判断が難しいものです。
必ず相見積りをとって、内容と金額を比較検討しましょう。
- 不要な工事が含まれていないか
- 費用項目に不明点はないか
- 原状回復ではなくグレードアップ工事になっていないか
- 共用部の工事まで含まれていないか
賃貸借契約書に原状回復すべき箇所の記載があるため、照らし合わせてみましょう。
居抜き退去する
敷引きや償却については契約時、賃貸借契約書に明記がある場合、原則支払わなくてはなりません。
原状回復費は、居抜きで退去することによって削減が可能です。
居抜きとは、退去時に内装や設備をそのままにして退去する方法です。
退去するテナントは、原状回復費用や廃棄費用を削減できます。
また、居抜きによる退去は原状回復工事の必要がなくなり、ギリギリまで退去するオフィス・事務所で稼働できます。
さらに、次の移転先のオフィス・事務所へ居抜きで入居することができれば、同時に内装費用や設備投資の費用も削減できます。
居抜きでの移転は、通常の移転とフローが異なるため、専門の仲介会社に相談しましょう。
オフィス探しや退去サポートはハイッテまでご相談ください
ハイッテ by 株式会社IPPO(イッポ)では、スタートアップ・ベンチャー企業から100坪以上の中堅企業のオフィス移転もおこなっております。
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監修者
株式会社IPPO 共同創業者 取締役 大隅識文
宅地建物取引士【東京都知事:第237969号】
中央大学卒業後、マスメディア向け制作会社に入社し経営にも携わる。その後不動産仲介会社に転職し、共同創業者として2018年株式会社IPPO(イッポ)を設立。シード・アーリー期のスタートアップ企業から上場企業までオフィス移転取引社数は500社以上、うち居抜きオフィス移転の取引実績は200社以上に達する。オーナーとの関係性も非常に良く、居抜きオフィス移転の実務を知り尽くした、きめ細かなサポートに、オーナー・顧客からの信頼も厚く、リピートが絶えない。