オフィス移転には、住居での賃貸契約と同様に賃貸借契約書が必要です。
また、オフィスの居抜き契約では、退去テナントが残した内装や設備が引き渡されるため、居抜き契約によるオフィス移転の賃貸借契約書には注意が必要です。
賃貸借契約書の確認にあたって弁護士など意見を参考にすることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
本コラムでは、居抜き契約のオフィス・事務所への移転で欠かせない、賃貸借契約書での確認ポイントや注意点を弁護士の監修の元、解説します。
この記事の目次
賃貸借契約書とは
賃貸借契約書は、マンションやアパートなどの賃貸物件を貸し借りする際に貸主と借主間で締結する契約書です。オフィス・事務所を契約する際にも必ず締結する契約書です。
居抜き契約におけるオフィスは、賃貸借契約書内に、退去予定のテナントが内装や設備が既に施された状態でオフィススペースを賃借する旨や原状回復義務も継承される旨を特約などに記載されます。
賃貸借契約書内に居抜き移転に関する記載がない場合、契約書のドラフトを確認する際に必ず確認しましょう。
居抜きオフィスを含む全てのオフィスの賃貸借契約書には、物件の原状回復義務や設備の使用条件、退去時の費用負担などが記載されています。
また、契約期間や賃料、共益費、保証金などの基本的な項目も含まれており、契約を締結する前に十分な確認が必要です。
普通借家契約と定期借家契約の違い
賃貸借契約には、普通借家契約と定期借家契約の2種類があります。
契約期間を自由に定めることができ、正当な事由がない限り更新される契約形態です。
ほとんどの賃貸借契約は普通借家契約で結ばれることが多く、契約期間は物件によって異なります。契約期間は1年以上とすることが定められていますが、オフィスビルの場合は2〜3年以上の契約期間が多いです。
予め契約期間が定められており、期間満了により退去しなければならない契約形態です。
定期借家制度では期間に定めはありませんが、契約期間を2〜3年とする契約が多いです。
2000年に施行された定期借家制度(定期建物賃貸借制度)により、契約内容で定めた期間を満了することで、賃貸借契約を終了できるようになりました。
オフィスビルでは、定期借家契約が可能なオフィスの多くは取り壊し前のオフィスビルであることが多いと言えます
※数年後に取り壊し予定がある場合、取り壊しまでの期間しか入居できないため
定期借家契約の場合、契約時に重要事項の説明と、定期借家契約書類の用意が必要です。
解約の1年前〜6ヶ月前までに賃貸人から賃借人へ解約の旨を通知する必要もあります。
契約形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
普通借家契約 | ・解約予告に則って、中途解約ができる ・オーナーの契約更新拒否の正当な事由がない限り、契約更新ができる ・口頭での契約も可能 | ・賃料改定される場合がある ・特約により中途解約に違約金がかかる場合がある ・更新時に契約更新料(賃料の1ヶ月が多い)がかかる |
定期借家契約 | ・通常よりも安い坪単価で借りることができるケースある ・取り壊し前の場合、原状回復義務なしで退去できる場合がある ・契約期間中に賃料改定されることがない | ・契約で定められた期間を伸ばすことはできない ・再契約ができない場合、退去する必要がある ・中途解約できないケースがある |
また、定期借家契約の物件の属性は大きく分けて3種類あります。
定期借家の物件の場合は下記のどれに該当するのかを予めチェックしておくことも大切です。
オフィスの種類 | 詳細 |
---|---|
通常のオフィス | 取り壊しの予定がないオフィス物件です オーナーにより様々で更新できる場合とできない場合があります |
シェアオフィス | コワーキングスペースやレンタルオフィス、シェアオフィスなど内装が完成している ※いつでも入居できるスペースがあります ※様々な企業が頻繁に出入りしており、更新できない場合もあります |
取り壊し決定オフィス物件 | 今後取り壊しが決定していて契約終了後は更新できないオフィス物件です この場合現状回復費用を支払わなくてよい場合があります |
造作譲渡契約との違い
造作譲渡契約書とは、前のテナントが施した内装や設備を新しいテナントに引き渡す際に所有権の所在を明確にするために締結する契約書です。
譲渡される内装や設備の価格、引き渡しの条件、受け取った内装・設備に対する所有権が新しいテナントに移ることが明記されています。
造作譲渡契約書は前のテナントと新しいテナントの間で締結されます。
賃貸借契約書は、貸主(オーナー)と新しい借主(テナント)の間で締結される契約書です。
居抜き契約では、賃貸借契約書と造作譲渡契約を同時に締結します(その後のトラブルを防止するため)。
賃貸借契約書の確認ポイント(居抜きオフィス対応)
居抜きオフィスの賃貸借契約書を確認する際に注意すべきポイントは主に以下です。
- 賃借する対象物件
- 契約期間
- 賃料などの費用
- 貸主や管理会社の情報
- 原状回復基準の有無
居抜きオフィスでの賃貸借契約書では通常オフィスでも注意すべき点に加えて、前のテナントの内装や家具を引き継いだ状態で入居するため、「原状」の基準が明確にされているか確認することも大切です。
トラブルを避けるためにも事前に把握しておきましょう。
賃借する対象物件
賃貸借契約書には、賃借するオフィス・事務所の名称や所在地、構造、用途など対象物件の情報が記載されています。
所在地の番地や建物の階数に誤りがないかを確認しましょう。
スタートアップ・ベンチャー企業の場合、マンションやSOHOをオフィス・事務所とすることがあり、用途が「居住用」になっていないか、注意しましょう。
居住用の場合は非課税ですが、事業用・事務所の場合は課税対象です。賃料や敷金・保証金などに影響があり、会計処理も複雑となります。
契約期間
賃貸借契約の期間は、オフィス物件や条件によって異なります。
一般的に、個人向けの賃貸物件では、普通借家契約で契約期間が2年間と定められていることが多いです。
一方で、オフィス・事務所となる事業用の賃貸物件は、普通借家契約の他、定期借家契約も多数存在します。
オフィス・事務所では、取り壊し前のビルや大手貸主(オーナー)の場合に定期借家契約を用いられることが多いです。
賃料などの費用
賃貸借における賃料や費用は、物件の立地や状態、契約内容によって大きく異なります。
契約状況 | オフィスの費用 |
---|---|
オフィス移転の初期費用 | 敷金、礼金、保証会社利用料、仲介手数料など |
契約中 | 管理費、共益費、光熱費など |
契約の解約時 | 原状回復費用、クリーニング費用など |
賃料は、物件の広さや設備、立地条件などによって決まります。
居抜きオフィスやセットアップオフィスでも追加で内装・設備の改修工事の費用が発生することがあります。
賃貸借契約中は、管理費や共益費、光熱費など物件の規模や設備、管理状況によって異なる費用が必要です。
オフィスを退去する際は、原状回復費用や退去費用が発生します(物件の状態や契約内容によって異なります)。
賃貸借契約書に原状回復基準や契約満了前の解約時の違約金など記載があるため、必ず確認しましょう。
貸主や管理会社の情報
賃貸借契約を締結する前に、貸主(オーナー)や管理会社に関する情報を入念に確認することが重要です。
オフィスの所有者である貸主(オーナー)や、オフィスを管理している会社の基本情報を理解しておくことで、今後トラブルが発生した場合でも適切に対応できます。
原状回復基準の有無
オフィス・事務所の賃貸借契約書には、必ず原状回復義務とその基準が記載されています。
しかし、居抜き契約によるオフィス・事務所は、既に内装やオフィス家具がある状態の区画に入居します。
そのため、退去するテナントが追加造作した内装を確認しておかなければ、退去時に原状回復基準が満たされていないと判断され、想定外の原状回復費用を支払わなければならない可能性があります。
居抜きオフィスの賃貸借契約書を締結する際は、退去予定のテナントが持っている原状回復の見積もりを取得しましょう。
居抜き契約によるオフィス移転では、賃貸借契約書のほか、造作譲渡契約書を締結し、原状回復の基準や譲渡品も明記しましょう。
居抜き契約における賃貸借契約時の注意点
居抜き契約におけるオフィス移転は、退去テナントが使用していた設備や内装を引き継げます。効率的かつコスト削減などのメリットがあります。
居抜き契約でのオフィスの賃貸借契約を締結する際は、以下の点に注意してください。
引き渡し時のオフィスの状態や設備の状況を明確にすることが重要です。
賃貸借契約書には、退去予定のテナントから引き継いだ設備や内装の譲渡に関する記載があるかどうかを確認しましょう(責任範囲や引き継ぎの条件の把握が可能)。
賃貸借契約書には、必ず原状回復義務について記載します。
居抜き契約の賃貸借契約書にも必ず原状回復義務が記載されます。退去時にどの設備やどの内装を元の状態に戻す必要があるかを明記しなければなりません。
- 引き渡し時の物件の状態や設備の状況を明確にする
- 退去テナントから引き継いだ設備や内装の譲渡に関する記載を確認
- 原状回復義務に明記する
造作譲渡契約書を締結する
居抜き契約によるオフィス移転では、内装や設備をトラブルなく引き継ぐためには、造作譲渡契約書を別途作成しましょう。
賃貸借契約書とは異なり、造作譲渡契約書は入居テナントと退去テナントが締結し、内装の譲渡を行います。
事前に確認事項や注意点を把握し、無事に引き渡しができるように、弁護士や居抜きオフィス移転の専門家に相談することが重要です。
造作譲渡契約書の内容や費用、退去予定のテナントが取得した原状回復工事の見積もりなどの詳細も事前に把握しておくことで、トラブルを防ぐことができます。
特記事項の内容を確認
居抜き物件の賃貸借契約を締結する際には、特記事項の内容を必ず確認しましょう。
居抜き契約のオフィス移転の場合、特記事項には内装・オフィス家具が引き継がれる旨など、通常の賃貸借契約書には記載されない詳細が含まれます。
退去における条件や内容を確認する
賃貸借契約書には退去する際の条件も記載されています。
契約期間満了での解約方法に加えて、契約期間満了前の解約や違約金など解約に際し重要な内容が記載されるため、入居時に退去・解約時の条件も確認しましょう。
賃貸借契約書を締結した後に契約内容を覆すことは非常に難しいため、退去・解約時にトラブルにならないように事前に確認が必要です。
居抜き契約におけるオフィス移転はハイッテにお任せください
ハイッテ by 株式会社IPPOは、スタートアップ・ベンチャー企業に特化した居抜きオフィス仲介に加え、豊富な知見とネットワークを活用した、居抜き契約のオフィス移転を得意としています。
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