監修者:大隅識文
株式会社IPPO共同創業者/取締役
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過去10年で大きな地震が頻発している日本において、大事な社員の生命と会社の財産を守るために、入居するオフィスビルが新耐震基準であるかは気になるところ…。
本記事では、新耐震基準と耐震基準との違いや直近の改正、オフィスビルを選ぶときのポイントに加えて、東京都が令和5年10月31日に公表した「耐震診断が義務付けられている建築物の耐震診断結果等の公表について」の内容も合わせて、解説します。
この記事の目次
耐震基準とは
耐震基準とは、建築基準法で定められている地震動で倒壊・崩壊する恐れがないかどうかの基準を指します。
許容応力度計算(一次設計)と保有水平体力計算(二次設計)を用いて、中規模地震や大規模地震にも耐えることができる基準が設けられています。
東京都内の耐震化について
建物の寿命は、法令でRC造(鉄筋コンクリート)は47年、SRC造(鉄筋鉄骨コンクリート)は60年と定められています。
しかし、耐震基準が1981年に変更になってから32年しか経過していないことから、現在では新旧耐震基準の建物が混在している状況です。
東京都内では、首都直下地震や南海トラフ巨大地震に備えるための耐震化が促進されています。
国土交通省が発表している「住宅・建築物の耐震化の現状と目標」では、令和4年3月31日時点で要緊急安全確認大規模建築物の耐震化率が90%となっており、令和7年までに耐震性が不十分な耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消される予定です。
法令上は旧耐震基準のオフィスビルでも、耐震化で補強されることにより、新耐震基準と同等の耐震基準をもつオフィスビルになっていることがあります。
インターネット上に記載がない場合は、オフィス移転仲介会社や管理会社へ確認しましょう。
新耐震基準と旧耐震基準の違い
1978年に発生した宮城県沖地震で大きな被害があったことから、耐震基準の見直しがされ、1981年に新耐震基準へ変わりました。
現在の日本には、旧耐震基準と新耐震基準で建設された建造物が存在します。
旧耐震基準とは
旧耐震基準とは、1950〜1981年5月末まで施行された耐震基準です。
旧耐震基準は許容応力度計算(一次設計)で検証されてた基準で、数十年に1度発生する震度5程度の中規模地震で家屋が倒壊・崩壊しないとされています。
しかし、震度5よりも大きな規模の地震での検証はされていません。
新耐震基準とは
新耐震基準は1981年6月1日に施行された新たな耐震基準で、許容応力度計算(一次設計)と保有水平体力計算(二次設計)で検証された基準で、中規模地震では家屋がほとんど損傷せず、阪神・淡路大震災にも匹敵する震度6〜7の大規模地震で家屋が倒壊・崩壊しないとされています。
また、1995年に発生した阪神淡路大震災により、2000年に新耐震基準の見直しが行われましたが、改正内容の多くが木造住宅に関する内容で、鉄筋コンクリート造のマンションの耐震基準は大きく変わっていません。
改正年度 | 耐震基準の内容 |
---|---|
1971年(旧耐震基準) | 1968年に起きた十勝沖地震を踏まえて、鉄筋コンクリート造のせん断補強基準を強化 |
1981年(新耐震基準) | 1978年に発生した宮城県沖地震を踏まえて、建物の耐震基準が大幅に見直し ※震度6〜7の大規模地震で家屋が倒壊・崩壊しない基準 |
2000年(新耐震基準) | 1995年に発生した阪神淡路大震災を踏まえて、主に木造住宅に対する耐震基準を見直し ※鉄筋コンクリート造のマンションの耐震基準は大きく変わっていません。 |
令和5年度 東京都耐震診断結果について
東京都が令和5年10月31日に公表した「耐震診断が義務付けられている建築物の耐震診断結果等の公表について」には、要安全確認計画記載建築物(特定緊急輸送道路沿道建築物)と要緊急安全確認大規模建築物を対象建造物とした耐震診断が発表されています。公表件数は以下のとおりです。
対象建築物 | 安全性の評価 | 改修工事中など | 小計 | 命令 | 合計 | ||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | |||||
要安全確認計画記載建築物 (特定緊急輸送道路沿道建築物) | 109 | 46 | 248 | 1 | 404 | 2 | 406 |
要安全確認計画記載建築物 | – | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
要緊急安全確認大規模建築物 | 8 | 21 | 338 | 4 | 371 | 1 | 372 |
安全性の評価の内容は以下のとおりです。
安全性の評価 | 構造耐力上主要な部分の地震に対する安全性 |
---|---|
Ⅰ | 地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い |
Ⅱ | 地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性がある |
Ⅲ | 地震の震動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が低い (地震に対して安全な構造であると判断できる) |
いずれの評価も違法に建築されたものや劣化が放置されたものでない限りは、震度5強程度の中規模地震に対しては損傷が生ずるおそれは少なく、倒壊するおそれはないとされています。
また、地震に対する安全性の評価がⅠやⅡであっても、それをもって違反建築物とは扱われません。
また、旧耐震基準のオフィスビルも補強工事を行って新耐震基準に相当する耐震性を確保できているオフィスビルも多く存在します。
【参考】耐震診断が義務付けられている建築物の耐震診断結果等の公表について │ 東京都耐震ポータルサイト
オフィスビルの耐震基準の確認方法
オフィスビルの耐震基準を確認するには、建築確認通知書または建築確認済証という確認の許可がおりた交付日を確認しましょう。
交付日が1981年5月31日までの場合は旧耐震基準であり、交付日が1981年6月1日以降の場合、新耐震基準が採用されています。
竣工日が1981年6月1日以降だからといって新耐震基準ではない可能性もあります。
オフィスビルの耐震構造、制震構造、免震構造による違い
近年、施工されているオフィスビルは、制震や免震を採用し、高い耐震性を確保しています。
オフィスビルの地震対策には、揺れに備えて耐震構造や制震構造、免震構造を採用しています。
入居したいオフィスビルの耐震基準を確認したい場合、合わせて、オフィスビルの構造を確認しておきましょう。
地震などの水平方向の力に耐えられるよう設計された建築物の構造です。柱や梁、床、屋根、壁などの構造部分の強度を高め、筋交いや構造用合板、専用の接合金具などを使って補強が行われます。最も一般的で低コスト、強風にも対応し、地盤等の影響を受けにくく施工性も高いという特徴があります。
建物の骨組みに制震装置(ダンパーや錘など)を取り付け、地震の揺れを熱エネルギーに変換して建物の揺れを小さくする構造です。高層ビルやタワーマンションなどの高い建物では、上階ほど揺れが大きくなる傾向がありますが、制震構造を採用することで、上階における揺れの増幅を緩和できます。
建物と基礎の間にゴムなどでできた免震層を設け、地震による水平動が直接建物に伝わらないようにした構造です。
免震構造は、地震が発生した際に揺れを吸収し、建物にダメージが直接伝わらないように設計されています。免震装置が地面の細かい揺れを吸収し、上部の建物の揺れ方がゆっくりになるため、建物内で地震を感じなくなります。免震は戸建て住宅から中高層の商業ビルなど幅広く採用されています。
オフィス選びでの注意点
新耐震基準で竣工されたオフィスビルに入居したい場合、注意すべき点があります。
耐震性は竣工日では判断できない
竣工日とは、建物の建築が完了した日です。オフィスビルの竣工日が、新耐震基準が施工された日(1981年6月1日以降)よりも後だとしても新耐震基準が採用されたとは限りません。
耐震基準は建築確認申請日となるため、建築確認申請の日付が1981年6月1日以前の場合、たとえオフィスビルの竣工日が1981年6月1日以降だとしても旧耐震基準のオフィスビルとなります。
そのため、採用されている耐震基準はオフィスビルの竣工日ではなく、建築確認申請日を確認しましょう。
耐震性は築年数は比例しない
築年数が古い=耐震性が弱いとは限りません。
新耐震基準のほか、オフィスビルの作り方次第では築年数が古くても耐震性に優れていることがあります。
そのため、築年数が古いからといって、耐震性が低いと判断するのではなく、まずはオフィス移転仲介会社に相談してみましょう。
東京都内のハザードマップ・地震に関する地域危険度測定調査を確認しましょう
東京都内のビジネス街にあるオフィスビルの多くは新耐震基準を採用したり、耐震構造や制震構造、免震構造などの建物構造を工夫しているため、耐震性は強いと言われています。
しかし、東京都内でも地域によっては、震災における被害が出やすい地域もあるため、オフィス移転の際は必ず東京都が発表しているハザードマップ・地震に関する地域危険度測定調査を確認しましょう。
ランク1が最も危険性が低く、ランク5になればなるほど危険性が高まります。
東京都内のビジネス街にあるオフィスビルの多くは新耐震基準を採用したり、耐震構造や制震構造、免震構造などの建物構造を工夫しているため、耐震性は強いと言われています。
オフィス選びは従業員の働きやすさや事業拡大だけでなく、従業員の安全を守ることも大切です。現在、日本において、過去15年以内に震度5,6を超える大きな地震が増えています。
東京都も大きな被害が起こる震災が起きる可能性はゼロではなく、普段から防災訓練や防災グッズの備蓄、そしてオフィスビルの耐震性も考慮してオフィスを選びましょう。
耐震基準を満たしたオフィス・事務所をご提案いたします
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監修者
株式会社IPPO 共同創業者 取締役 大隅識文
宅地建物取引士【東京都知事:第237969号】
中央大学卒業後、マスメディア向け制作会社に入社し経営にも携わる。その後不動産仲介会社に転職し、共同創業者として2018年株式会社IPPO(イッポ)を設立。シード・アーリー期のスタートアップ企業から上場企業までオフィス移転取引社数は500社以上、うち居抜きオフィス移転の取引実績は200社以上に達する。オーナーとの関係性も非常に良く、居抜きオフィス移転の実務を知り尽くした、きめ細かなサポートに、オーナー・顧客からの信頼も厚く、リピートが絶えない。
執筆者 ハイッテ編集部
株式会社IPPO全般のマーケティングを担っています。ハイッテの運用のほか、オフィス移転事例や賃料相場、オフィス調査なども行なっております。