VCインタビュー第7弾はYahoo!Japanのコーポレートベンチャーキャピタル、YJキャピタルの大久保 洸平氏です。VC業界で働くこととなった経緯や、日々の業務、投資を行う際に大事にしているポイントなどを聞いてみました。
大久保 洸平(おおくぼ こうへい)
YJキャピタル株式会社 インベストメントマネージャー
東京工業大学大学院卒業後、ヤフー株式会社に入社。
入社後はショッピングカンパニーにおいて、Yahoo!ショッピング出店企業へコンサル営業、サービスEC事業立上げ、プログラマティック広告の導入等の業務に従事。
2017年10月よりYJキャピタルに参画。
インタビュアー
株式会社IPPO 山岸 耕
yutori、ペイミー、AppBrewといったスタートアップのオフィス移転を創業期から手掛ける。
この記事の目次
YJキャピタルでの業務に関して
——大久保さんはYJキャピタルで1週間どのようなお仕事をされているんでしょうか?
大久保さん:1日の流れとしては週によって変化しますが、行っている作業の内容としては大きく分けると投資周りの業務と投資以外の業務を行っています。投資周りが7割ぐらい、他は3割ぐらいの印象です。
投資周りの中でも「新規周り」と「既存周り」に業務が分かれています。新規の業務は作業ボリュームの7割のうちの4〜5割ぐらいの比重、残りの2〜3割ほどが既存ですね。新規の方の4〜5割の中で「会って話す時間」と「DD(Due Diligence:投資検討)」が半々ぐらいです。
既存の方は定例や個別のMTGを行っています。
残りの3割の業務はYahooのシナジーまわりの動きをしています。例えばYJキャピタルとしては「メディア」と「コマース」と「フィンテック」の3つに力を入れていこうとしているのですが、コマースでいえば「ソーシャルコマース」というジャンルを調査、レポートして提出するといったように、領域調査レポートを半年に一回行ったりしています。
——その3割の業務内容は他のVCさんと異なるところですよね。そのレポートは基本的には親元のYahoo!Japanに対して提出するものなのでしょうか?
大久保さん:これに関しては対内と対外に分かれていまして、対内であれば親会社であるYahoo!Japan向けに、対外であれば勉強会として外向けにイベントを行っていたり、そのレポートの投資仮説に基づいてソーシングを行ったりしています。
——その領域調査レポートの内容はスタートアップの経営層からサービス内容やマーケット感をヒアリングしたり、海外の情報を調べてインプットしたりしたものを掛け合わせてレポートとしてまとめるのでしょうか?
大久保さん:そうですね、報告の内容としては、マーケット分析をはじめ、海外の先進的な事例などをもとに、日本の現状から3年後や5年後の状況をイメージし、どのような分野に投資を行っていくかなどといった内容です。
弊社はCVC(Corporate Venture Capital)ということもあり、先ほどの3領域がこれから日本や世界で中長期的にどうなるのかなという予測をした上で、その領域に取り組んでいるスタートアップの方に出資していきたいという一連の取り組みですかね。
その中でも「stand.fm」というサービスはこの領域調査からの投資が成立したわかりやすい事例と言えますね。メディア文脈での音声がアメリカや中国ですごく台頭している中で、日本はまだまだ伸び代があるなと。でもこれからおそらくもっと伸びるだろうと仮説を立て、その中でも大きく成功をしそうなサービスとして注目し、投資をさせていただきました。
YJキャピタルのチーム体制
——メンバーによってコマースやメディアやフィンテックなど担当する領域が異なるんですか?
大久保さん:そうですね。私はもともとYahooに入社してコマースの領域で3年ほど業務を行っていた経験もあり、レポートという観点で言えば個人的にはコマースを担当しています。
現状メインで投資を行っているメンバーが大体10人ほどいまして、それぞれフィンテック、メディア、コマースで2人ずつアサインしているようなスタイルです。
——実際チーム的な集まりは週ベースなどでの定例などを行っているんでしょうか?
大久保さん:社内での定例は毎週行っておりいわゆる営業進捗やその他業務の相談を全員で共有しています。
あとはオンデマンドでプロジェクトごとにMTGがあります。ここでは先ほどの領域調査などの進捗をすりあわせたりしています。
最近広報にも力を入れているので、広報やブランディングをどのようにやっていこうかなどのプロジェクトベースのMTGは通常の定例とは別に行っていたりします。
YJキャピタルが力を入れていきたい方向性
——YJキャピタルとして中でも今強化しているポイントなどはあるんでしょうか?
大久保さん:全方位です(笑)LINEとYahooがパートナーになることで「アジアから世界をリードするAIテックカンパニー」を目指そうとしています。そうなった時にYJキャピタルとしてはアジアの優秀な企業たちが集まれる場になれればいいよねというのをゴールのイメージ像の1つとして考えています。
そのためにオールステージオールジャンル対応することができたり、特定の領域にすごく強かったり、さらにアドバリューの点で言えばコーチングの提供やnoteやYouTubeでのアウトプット、情報発信も大切にしています。
弊社の堀(YJキャピタル代表取締役社長 堀新一郎氏)が書いた「STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動した」などもこの情報発信の一貫としてとらえていて、これらの情報や知見を世の中のインフラにしたいなと思っています。
これらの情報によりスタートアップ業界がさらに前進し、優れた起業家がたくさん登場し、弊社と一緒に事業を進めていくことでYJキャピタルがエコシステムとしてのハブであったり、優秀な起業家が集う場所にしていきたい、というのが大きな方向性ではあります。
——堀さんが書かれた「STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動した」は弊社でも必読書としてかなり話題になっていました。他のCVCさんに比べてアウトプットの量がかなり多いのかなと思うのですが、先ほどのお話しも踏まえるとかなり意識的に行われているんですか?
大久保さん:そうですね、頑張っています(笑)
特にリモートの時代になってオフラインの接点が減少していってしまう現在においてはデジタル世界における認知を高める事は非常に重要な事だと考えています。
そうなると情報発信しかないなと思っていて。
コロナになってからはどのVCでも情報発信やリブランディングなどに力を入れている印象を受けますが、負けずに頑張ろうとしています。
——なるほど。アウトプットのお話しで言えば大久保さんのTwitterもツイートの率が高いんですごく楽しみにしています。今Twitterなどを強化されてるという話もお伺いしたのですが、それもこの広報やブランディングの一環なのでしょうか?
大久保さん:最近Twitterお休みがちになってしまっていますが(笑)一応みんなでTwitterとnoteを頑張ろうという話にはなっていますね。
——御社のアウトプットを見ていると「投資家」よりも「研究者」と言った言葉の方が当てはまる気もします
大久保さん:確かに世の中には研究者的な投資家の方も多いですもんね(笑)
——「ECのミカタ通信」に掲載されていた大久保さんの記事を拝読させていただきまして、中国のマーケット情報などすごく詳細に調べられているんだなと驚きました。
大久保さん:ありがとうございます!中国人のキャピタリストがいるので詳しい情報手に入りやすいんですよ。助かっております。
大久保さんの役割や業務
——大久保さん個人の部分でもお伺いさせてください。出資の担当領域やフェーズなどって明確に決まっていたりするんでしょうか?
大久保さん:明確には決まっていないです。YJキャピタル全体として、シードでは、ポスト1億の700万円出資という「Code Republic」というアクセラレータープログラムから、hey社やココン社、Repro社などのレイターステージでの投資まで幅広く行っています。
——大久保さんが前に出てシリーズAになっていない会社さんとお話しすることもあれば、heyさんやココンさん、Reproさんなどのレイターの会社さんともお話しすることもあるんですね。
大久保さん:そうですね、両方あります。
中でも頑張って行きたいねって話になっているのはシリーズAですね。会社のバリューでもある「No.1」という軸に沿って投資仮説を構築し投資検討していっています。
——「No.1」のお話でいえば国内でのシェアのことなのでしょうか?それとも世界なのでしょうか?
大久保さん:それで言えば今は国内がメインですね。統合されたらアジアを目指すのかもしれません。
East Ventures、SMDV(Sinar Mas Digital Ventures)、YJキャピタル3社で運営しているEVグロースファンドは東南アジアでの投資をしているので、ここは東南アジアNo1を目指していますね。
——実際に大久保さんが担当されているところでいうと弊社のお客様もいらっしゃいますね。どの会社にどのタイミングから出資したなど、もしお話しできそうな部分があればお教えいただきたいです。
大久保さん:入社して初めの頃携わった会社様で言いますとTHECOO社やバーチャサイズ社、ベルフェイス社ですかね。
印象的な出会いとしてはベルフェイスさんです。B Dash Campという大きなイベントがあるのですが、私がYJキャピタルに入って初めて参加したのがこれだったんです。当時はスタッフとして参加させていただきました。そこにベルフェイスさんも参加されていてピッチを聞いたのが最初の出会いでした。すごく魅力的だったので、すぐに連絡しようと思い、Twitterで検索して、何とかCTOの方を見つけました。そこで、「すごくよかったです」的なDMを送ったんです。そうしたら代表の中島さんをご紹介いただき、そこから投資検討、投資実行に至ったという流れでした。思い出深いエピソードです(笑)。その後、追加出資も2回ほどさせていただきました。
——紹介案件は基本的には社内紹介なのでしょうか?
大久保さん:社内紹介、社外からの紹介両方ありますね。出会ってから投資に至るまでの期間としては、会ってすぐ投資するパターンは少ない印象で、最初にお会いしてから数年ほどお付き合いしてから投資ということもしばしばある気がします。
出資の際に大切にしていること
——いろいろな会社さんとお話しする機会は多いかと思うんですが、その時に大事にしている事はありますか?
大久保さん:大事にしているスタンスとしては、
「同じ目線にたつこと」
「出資をお断りするとしても相手にとっていい時間にするにはどうすればいいか」
を考えています。
ベンチャーキャピタルという仕事柄お断りすることが多くなるので、その場合でも相手にとって有意義な時間にできるよう心がけています。相手の目線に立って「何を悩んでるのかな」「自分だったらこうピッチするな」などの議論をすることで相手にとって有益な時間にすること意識しています。
お見送りする時もその理由を可能な限り言語化することも意識していますね。「このポイントとこのポイントをシリーズAだと重要視していて、こういう状態になっていると社内で検討進められると思います」といったように理由をできるだけ伝えるように意識しています。
例えば「PMFしてないよね」ってふわっと断られたとしたら、「PMFの定義ってなんですか?」って聞いたほうがいいですよとか。そこで僕のPMFの定義はこうだよって伝えたりもしています。
ある時、このように相手が気づきを得れるようなコミュニケーションを考えていたら、起業家の方に、今の話の内容を記事化してみたら?って言われたんですよ。1時間のMTGだと1対1の情報発信しかできないけれど、noteにすると1対nで発信ができるなと。このことがきっかけでnoteを始めました。情報を業界のインフラ化したいと言ってしまうと大げさですが、知ってたら避けられること、対策できることもあると思うんです。それを少しでも手助けできたらいいなと思って記事化してますね。
——確かに投資基準とかは基本的にはなかなかオープンにされないですよね。大久保さん自身でこのアウトプットは意識がけてるんですね。
大久保さん:パーソナルミッションが「より良い未来をいち早く」なんですよ。最近思いついたのでそれに基づいて何かやってるわけじゃないんですけど(笑)
そのうちの1つで「インフラを整える」というのは大事だと考えています。情報の非対称性がVC側と企業側ですごいあるなと思っていて。本当はプロダクトがいいんだけどピッチが下手で損してしまっている起業家とか、本当はVCが聞きたい論点が入っていないから1回目のMTGでうまくいかないとかということがしばしばあると思ってるんです。
そういう意味でnoteに書いた8つのポイントはVCみんなが知りたいことだから起業家は意識したほうがいいのかなと。それを知ってくれた人が少しでもプレゼン内容が良くなって、ちょっとでも資金調達の確率が上がって、業界の底上げになればいいな、という文脈での情報発信を心がけています。かなり大げさな話なんですけどね(笑)。気持ちとしてはそういった感じです。
——合理的かつルール付けを明確にされていて、しっかりと基準を持たれてるんですね。
大久保さん:そんなことないと思うんですけどね(笑)もちろん僕たちが投資した会社が大きくなってくれれば嬉しいですが、ZHDのCVCということもあり僕たちの場合はもう少し上の概念で物事を考えやすい環境だなとは思います。
それこそYahooやLINEなど日本のインフラ化している企業としては、スタートアップやVCのエコシステム作りに何かしら携われたほうが面白いかなとは思っていて、それ軸でのアクションを増やしていきたいと考えてます。
出資してからの関わり方
——出資してからその後の繋がりとして資金調達以外のところはどのように関わるのでしょうか?
大久保さん:個人と組織の軸があると思うんですよね。まず組織で言えばZホールディングスとのシナジーっていうのが組織としてのアドバリューとしては最もわかりやすいと思っています。
独自性と価値というマトリックスでいつも考えるんですが、
- 独自性があって価値があること
- 独自性がないけど価値があること
この2つの領域を基本的にはやっていくことになると思います。
特に「独自性があって価値があること」に関して進めていくことになると思うのですが、ここはZホールディングスのアセットを活かすことができると強いなと思ってます。例えば社内営業です。スタートアップの要望があれば社内でキーパーソンに頑張って営業をしたりしてます。また、最近はZピッチという、Zホールディングスの事業部向けへのピッチイベントを定期開催していたりします。
他には、ノウハウ的な部分ですね。コマースで〇〇で困ってるという声があれば、それに詳しい担当者と話して解決に導いたりなどですね。
このように、営業的な概念とノウハウ的な部分での関わりが組織という軸で行っている部分かなと思います。
一方、個人の方で言えばケースバイケースなのかと思います。ある出資先は主に定例MTGに出席するだけのこともありますし、ある出資先は現場のマネージャー陣とディスカッションをしつつ、具体的なデータ分析や顧客分析をしたり一緒に営業したりすることもあります。
——そのようなサポートはリードで入っていたかどうかは多少関係しているんでしょうか?
大久保さん:個人的にはあまり気にしていないですね。リードで入ってないところでもやらせていただくことはありますし、これは相手との相性や求めているかどうか、といった要素にもよってくるのだと思います。
あと最近はYJキャピタルとしてはコーチングを強化していますね。投資先の方に無償でコーチ・エィのプログラムを提供していたり、私自身もコーチ・エィに通わせていただいたので、投資先にコーチングすることもあります。
ある会社だとマネージャー陣4名に対してコーチングしたりしていますね。月二回30分〜60分、今のあなたの課題やゴールは〇〇ですね、次のアクションはどうしましょうかなどといった内省や気づきの機会になればと思い、やらせていただいてます。これも「独自性があって価値があること」と言えるかもしれませんね。
——Twitterでグロービスの研修のことに触れられていたかと思うのですが、グロービスは自主学習的なものしょうか?
大久保:グロービスの研修も会社として通っております。私自身はファシリテーション研修を受講しておりますが、人によって受講している科目は異なるようです。
支援力強化という意味で個人としての力の底上げをしていこうとYJキャピタルでは取り組んでます。このようなスキルをしっかり身につけて付加価値出していきたいよねという戦略をとっています。
——様々なキャピタリストの方にお会いしますが、どちらかと言えばスタートアップやマーケットに対してのインプットを積極的にされている印象がありました。コーチングなどの研修を通して、人としてその会社にどう貢献するかという部分に重点を置いているのは他のVCさんとの大きな違いなのかなと感じました。
大久保さん:ありがとうございます!まさに、コーチングを通じた付加価値提供は2020年組織全体で注力しております。それと同時に、先ほどお話した領域調査もわかりやすい価値提供かと考えてます。忙しい起業家に変わってその領域で誰よりも調べて起業家に共有したり、アイデアの種を探して共有したりと、リサーチ内容を還元することでお役に立てているのかなとも思います。
キャピタリストとして苦労したこと
——今3年ほどキャピタリストをされているとのことなんですが、実際大変だったこと、苦労されていることなどがあれば教えてください。
大久保さん:最初はバックグラウンドの違いですね。金融出身でもなければスタートアップ出身でもなかったので、そこにキャッチアップするのがとても大変でした。
例えばどうやって起業家に会うの?というのもありました。いきなり放り出された時にどうすればいいのかなと。
DDすると言っても何のポイント見ればいいのかとか、何を基準に良し悪しを判断すればいいのかとかもわかりませんでした。投資契約の契約書もわかりませんでしたし。それにアドバリューと言ってもその領域の専門家である社長に対して自分にできることがそもそもあるのか?というのもありましたね。
様々な領域に対して横断的な知識やスキルが必要な中、そもそもスキルが追いついてないということは課題でした。
何の要素が全体として必要で、自分の現状がどこにあって、このギャップは何で、それ埋めるには何が必要?っていう最低水準に到達するのがすごく大変でした。ずっと勉強でしたね。勉強好きだからいんですけど(笑)
——出向の前はスタートアップとかとの関わりはなかったんですか?
大久保さん:一切なかったですね。ご縁あってVCに来ちゃった感じです(笑)
Yahooには社内転職制度がありまして年に1回各事業部が公募するんですが、それで応募して合格すると入社できるんです。
Yahooで2年ほど働いていて今後のキャリアについて考えていた矢先に、YJキャピタルの代表である堀さんとランチして魅力を感じたんです。それで社内転職に応募したんですよ。
元々Eコマースの部分ではプロダクトのマネージャーや営業、広告企画などをしてたので全く関係なかったんです。完全0スタートでしたね。
最初は簿記2級とったり、PL/BS読めるようになったり、本当に一歩一歩でしたね。スキル面で苦労したことはこのあたりですね。
メンタル面でいうとなかなか投資できないのが大変でしたね。スキルもない中でベテラン投資家の上司を納得させて社内でコンセンサスを取るのはすごく難しいなと思ってました。スタートアップ投資という不確実性がもともと高い職種に於いて、コンセンサスをとるというのは、今でも骨を折ってます。
スタートアップの方が資金調達をする際に気をつけるべきポイント
——この部分がよかったら出資できてたなと思うような、スタートアップの方が陥りやすいような、気をつけるべきポイントなどはありますか?
大久保:本当にケースバイケースですね。
例えばあるリサーチ会社が調べた、起業がうまくいかなかった理由ランキングというものがあって、その一位が「課題がなかった」というものだったんですね。こういうことは実際にも起こりがちで、そういった場合は解決策のHowから入ってしまってることが多い印象ですね。Yコンビネーターでも「課題ないところに解決策はない」という言葉があるみたいでまさにそのとおりだなと。
ただ、VRやブロックチェーンなどのソシューションから入った方が、ワクワクして楽しかったりするのはわかりますけどね(笑)
なので初期の初期はHowじゃなくて課題は何かっていうのを意識したほうがいいかもねと、アドバイスしたりします。
初期は大体「課題は何?」「アイデアを100個考えたかどうか、考え尽くしたか」「この領域で日本一詳しい自信があるか」ってことを聞く気がしますね。けっこうたくさんポイントがありますね(笑)
あとは、アイデアが決まって、PMFのためにMVP検証して、その後にグロースが合ってといったフェーズに関する、全体的なメタ認知をできているかも重要だと思います。というのも自分たちが今どのフェーズにいるのかわからないままアクションしてしまっていることも多くて。どのような全体像の中で今ここの部分をやっていると認知している起業家の方は、すごいなぁと思いますね。
——これから大久保さんに話を聞きに行く人が、大保さんから出資してもらうために気をつけるべきポイントはどのあたりでしょうか?
大久保さん:でも本当に先ほど話に出たnoteの部分をメインにお話しているイメージです笑
それを言語化するとケースバイケースになってしまうんですけど。簡単に言えば山に例えていて、山が高いか=マーケットが大きいかって話と、そこに向けて登山口見つけたか=PMFを見つけているかって話だと思ってます。
「料理」という山に例えるなら、クックパッドは「テキスト」や「画像」という入り口からその山を登っていますが、クラシルやデリッシュキッチンなどはその山に「動画」という入り口もあることを見つけて別なルートで登っています。少し前の話にはなりますが。これが新しい登山口の話で、PMFを見つけているかどうかに関わってきます。
すなわち「価値提供できているか」が登山口ですね。
「山の高さ」はその領域がより拡大できるかどうか、大きくなるかどうかに関係してきます。
「山の登り方」というところで、「勝てるのか」「儲かるのか」「成長戦略の蓋然性があるのか」といった要素を見ていたりします。
あとはもちろん、チームとタイミングが大切かなと。というのも登山口って開く瞬間と開かない瞬間があると思っていて。
PEST的なマクロの話もそうですし、それこそ今コロナですが、マクロの変化とかがないとその登山口ってなかなか開かないことが多い印象です。これらの、チーム、タイミング、PMF、競合優位性、マネタイズ、グロース戦略、市場や代替する企業が大きいか、今の株価やROIなどの要素はまず頭の中に浮かぶところですね。
——確かにタイミングはかなり大切ですね。
大久保さん:そうですね、タイミングが全て的なリサーチも多いですね。自分たちが課題だと思っていても、実は世の中にはその課題がなかったということが最大の失敗理由になってしまう調査もありますし。これはHowから入ってるからなんですが、つまづく率でいうとこれが一番多いかもしれないですね。
気をつけるポイントを一個挙げるとすると「課題が見えてるかどうか」ということになるのかもしれません。
大久保さんのキャリアの考え方
——少し話を戻して、Yahooから出向してYJキャピタルに入社される前にキャリアについて悩んでいた時期があったとおっしゃっていましたが、それはどのような背景があったんでしょうか?
大久保さん:当時キャリアの軸として3つ考えていました。1つ目はワクワクする人と働きたい。誰と働くかって軸ですね。2つ目は経営目線の職業に携わりたい。部分最適より全体を見れるようになりたいというイメージですね。3つ目は常に学び続けられる環境、勉強が必要とされる環境で働きたい、というものがありました。これらの軸でキャリアについて悩んでいる中で、YJキャピタルの話を聞いたんですよね。
1つ目の「ワクワクする人と働きたい」という意味であれば、世の中を変えようとしている起業家と働けることは魅力の1つでした。
2つ目の「経営的な知識を学びたい」では経営の部分はもちろん定性面と定量面でビジネスを深く知ることができることに魅力を感じました。定量面ではPL/BSやLTVなどの分析などを行いますし、定性面で言えば、例えば「音声領域がきっとこれからくるよ、なぜならば〜」的な定量ではなかなか断定しにくいような部分に対して定性的な仮説を立てて未来を予測する仕事、いわゆる預言者的な面白さを感じました。
最後の「常に学び続けられる環境」に関しては、常に、わからないことに囲まれているので学び続けるしかありませんでしたね(笑)。起業家のように各領域のトップの人と話すときの前提知識が毎回必要なこともあって勉強が必要とされることなど含め、YJキャピタルは3つの軸に当てはまってるなと思って異動を希望したという背景がありましたね。
——なるほど。VCがマッチしてるかどうかよりもYJキャピタルにマッチしているといった印象ですね。
大久保:もともとコンサルとかに行きたかったんですよね。その3つの軸に合うかなと思ってて。でも堀さんに相談したところYJキャピタルのほうが楽しいよって言われて(笑)
縁あって入社したYJキャピタルですが、なかなかVCってやりたくてもやれない仕事だし、Yahooという日本の中でも大きな企業が母体ということも相まって、すごくラッキーだなって思います。
——大久保さんが今後のキャリアをどうお考えなのか教えてください。
大久保さん:会社としてはアジアNo1のVCになるというのもありますし、個人としてはキャピタリストとしてまず頑張ることですかね。
今後については、組織、個人に加えてコミュニティという主体の軸を入れたいと思ってまして、会社の垣根を超えて何かやっていきたいなというのはありますね。
——コミュニティというのはスタートアップ領域でのイメージですか?
大久保さん:そうですね、スタートアップのエコシステムという切り口がわかりやすいのかなとは思っています。
noteを書いていて大企業で新規事業をされてる方からも連絡が来たりするんですよね。なので「新しいことを生み出す」のような文脈でもいいのかなとも思ったりします。切り口は難しいですよね。
資金調達がしやすくなったり、PMFの探り方などのノウハウもあったり、営業しやすくなったり、ワンストッププラットフォーム的なイメージですかね。個人的にはこれをやれると面白いのかなと思ってます。
大久保さんが今注目している業界や企業
——ありがとうございます。少し話を変えて、大久保さんが注目している業界があれば教えてください。
大久保さん:コマース領域全体のDXみたいなのはテーマとして持っています。仕入れや物流、販売などなど含めたサプライチェーン全体のDXには注目していますね。コロナで消費体験が変わったので今はもう全部面白いんですよね(笑)
テーマとしては「Updateお買い物」ですかね。Yahooの考えが「Update Japan」「Update World」っていうビジョンなんです。特にコロナの環境とかもあったんで、toCのお買い物はもちろん、物流や仕入れなどの部分も含めてアップデートしていけたらなと。
特に注目してるのがタッチポイントの変化ですかね。タッチポイントが検索からSNSなどのソーシャルに移り変わっていっているので、ソーシャルコマースは注目しています。でも広く言ってしまえばお金を使うもの全体がコマースと言えると思っているんです。不動産やリクルート、美容や飲食などもコマースなのかなと。
——注目している企業などはありますか?
大久保さん:企業名となるとなかなか難しいですが、領域でもいいのであれば「パッションエコノミー」ですね。
「Updateお買い物」と並列の概念になってしまいそうですが、アンドリーセン・ホロヴィッツが提唱している概念で、簡単に言えば「個の時代」って意味です。投げ銭やスニーカーやトレーディングカードなどもそうかなと思うのですが、CtoC領域は特にパッションをお金化しているというか。今まではマスで「広く浅く」だったのが、「狭く深く」のバーティカル化が進んでいるような部分は面白いなと思います。そう言った意味では「Patreon」は一番有名かもしれないですね。個人がレッスンでお金がもらえたり、メルマガでお金がもらえたり。
あとは「拼多多(ピンドードー)」が面白いかもしれないですね。4年で10兆円企業ですし。
彼らのようなスタートアップと同時に、我々は大企業でもあるのでアマゾンやアリババはベンチマークしてますね。彼らの戦略を参考にしますし、彼らが行っていて日本でまだやってない領域とかは注目しています。
YJキャピタルとしてはそういった世界のテックジャイアントの動きはウォッチしていますね。
——周りのVCさんとの絡みは多いんでしょうか?
大久保さん:組織としては一緒にファンドを行っているのでEVグロースファンドなどとの絡みは多いですね。
個人でVCさんと絡む場合はみんな友達みたいな感じです笑。週1、2ぐらいは飲んでたりしますね。
——最後に、弊社はオフィス仲介をしているんですが、大久保さんが面白いなと思った内装とか、気になったオフィスや取り組みやチームビルディングなどあればお聞きしたいです。
大久保さん:ラクスルさんにお伺いした時は面白かったですね。吹き抜けでセンターに大きなブロック?があって、凄かったです笑
あとヤプリさんも面白かったです。会議室の名前がSaaSにちなんだ名称になっていて、文化として浸透しているなと。
とにかくラクスルさんは際立って印象に残っています。ミッションが壁に書いてあったのもインパクト大きかったですね。
編集後記
たくさんのお話を聞くことができました。とても印象的だったのが、ベンチャーキャピタリストとしての学びを常に大切にされている方だと強く伝わってきました。
コーチングや証券アナリストなど、業務をやりながら常に学習も欠かさない姿勢が、いち社会人としても尊敬の言葉しか浮かんできません。
大久保さんのインプットとアウトプットの量が垣間見えるTwitterも必見なので、ぜひ見ていただきたいです。
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