2022年7月1日に設立した、松竹グループのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)である松竹ベンチャーズ株式会社執行役員の平岩英佑氏にインタビュー。オープンイノベーションの加速を目指し、【スタートアップ企業を対象とする投資事業】と【スタートアップ企業との共創事業】の2つの事業を行う同社に、強みや特徴、注目する業界などを伺いました。
松竹ベンチャーズ株式会社
執行役員
平岩 英佑 氏
この記事の目次
松竹ベンチャーズについて
強み・特徴
設立の前段として親会社の松竹についてお話しさせてください。
松竹は100年以上の歴史のある歌舞伎を中心とした演劇事業に加え、製作や配給、興行まで対応する映画事業など、演劇・映画・不動産事業を中心に3本柱でこれまで歴史を重ねてきました。今後は次の時代を牽引するような様々な革新を起こすため新たに事業開発本部を発足し、NTT様やドワンゴ様と連携し初音ミクとコラボした「超歌舞伎」や、アイドルと文通できる「フロムアイドル」など新しい事にトライしております。
このような経験を経て、外部パートナーの方々と連携することで、今まで見えていなかった新しい技術やサービスの最先端にいるスタートアップの皆様と共に革新を起こしていきたいという想いがあり、松竹ベンチャーズの設立に至りました。
選定企業との付き合い方
弊社には様々な経歴や領域を得意としたメンバーが揃っており、各事業部門からも窓口となる担当者を立てて現場と繋ぐサポートをしていくような体制をとっています。その上で、取引企業様とは週1回の定例会を設けております。社内に各分野のプロが在籍していますので、その引き合わせなども行っています。社内でカバーできない分野に関しては、弊社がもつ各方面のコネクションを使いアドバイザー的に入ってもらったりもしています。コネクションと社内リソースを上手く活用し、選定企業の事業を加速させていくということに一番力を入れています。
プログラムについて
概要
約半年をかけて松竹グループのリソースを活用し、今後の共創を見据えて実施可能かどうかを見極める概念実証(PoC)を行うというのがプログラムにおける大元の趣旨です。具体的には、それぞれの採択企業に予算を設け、映画や演劇、不動産の現場と繋ぎ、各社の構想を実証実験を行うまでサポートし実現可能かどうか検証していきます。
現在進行しているプログラムでは、6月末から8月までの約1ヶ月半にわたる募集期間のうち、約90社にご応募いただきました。その中から書類選考で厳選した約30社には、「松竹と何がしたいか」や「サービス」などをピッチしていただき、最終的に8社を選定しました。12月22日にはDemoDay(発表会)が控えており、ここでは「松竹とどのような未来を描いていくか」というような、中長期の事業計画をピッチしていただく場を設けています。優勝企業には賞金100万円もご用意しています。このイベントを通じて、スタートアップがいかに面白い事をやっているかを世の中の方々にもっと知ってもらいたいと思っています。
また、条件が合致すればプログラム終了以降も引き続き協業していくことも視野に入れており、必要に応じてファイナンスの支援なども行っていきます。
選定基準
明確な選定基準を設けているわけではありませんが、松竹グループとお互いのリソースを掛け合わせ、いかに新しいものを創り出せるかという点を重要視しています。それに加え、担当者の熱意ベースで採択させていただいているところもあります。現場も含めて「面白い!」と思えるかが大事だと思っており、「本気で変革を起こしたいのかどうか」という熱意がこのプログラムには前提として必要だと実感しています。加えて、あえて基準を言葉にするのであれば
・お互いのリソースを活用して協業できるか
・松竹が取り組む意義があるか
・中長期でインパクトがある事業プランか
の3つが主な基準と言えるかもしれません。
採択された企業の事例
anystyle
Vtuberやボーカロイドなど新しいIP(知的財産)が次々と出てきています。今まで、IPの創造は映画などコンテンツベースで行うことが多かったですが、anystyleさんと伴走することで、弊社が持つ観念とは違う角度からIPをつくっていけるのではないかと思い採択させていただきました。それに加えて代表の熱意や諸々の進捗スピードも凄まじかったので、協業できれば面白いことになりそうだと感じれたのも大きいと思います。
SALLY
マーダーミステリーゲームアプリ「ウズ」を展開し、オンライン上でできるアプリを開発している企業です。こういったものを能動的に体験できる「体験型エンタメ」と呼称しているのですが、弊社でも体験型劇場「イマーシブシアター」などを展開しています。これらを運営する上で課題として開催する場所が限定されたり、場所が決まらないと中身が作れなかったりという部分がありました。今回は「すべての店舗を劇場に」というテーマで全く新しい汎用性のある体験型コンテンツを作り、弊社のネットワークを活用して様々な施設に展開できればと考えております。また、Sallyさんの持つアプリを使って、オンラインでの展開も目指すことで、新しいコンテンツを広く届けていきます。
平岩氏について
自身の強み
新卒から松竹に入社し映画宣伝部で培ったエンタメに特化した現場力と、秘書室で得た会社全体を見る力、社内の広い人脈やVCへの出向で得た知見とネットワークが強みです。これらの経験をもとにこれまで進めてきたオープンイノベーションをより加速させていきたいと思います。
特に初期のスタートアップの場合、現況のタスクに追われてPR周りにリソースを割けずにいることが多いのではないでしょうか。事業の作り方として初めに小さく展開し、それに対してユーザーが定着した時に支持されている部分を拡大していくのがよくある手法ですが、反対に弊社としてはサービスリリースした際の最初のスタート値をいかに高くもつかが鍵だと考えます。この部分において、映画宣伝で培った知見やテレビ局とのネットワークを活かせると考えています。マスに宣伝していくやり方は最初の段階ではあまり行わないため、そういったところも経験を活かしてサポートできたらと思っています。
また、スタートアップの知見やネットワークという面では、アクセラレーションプログラムの立ち上げからVCへの参画をしてきました。ANOBAKAというスタートアップに特化したVCへ出向した際、5ヶ月間で約100社と面談させていただきました。エンタメ業界以外の企業の収益モデルを知れたのは勉強になりました。その他にもJR東日本スタートアップにも出向させていただき、アクセラレーションプログラムの経験値も積み重ねてきました。
松竹ベンチャーズで働く理由
スタートアップ側と社内側の2つの面があると思っています。1つ目はスタートアップ側の面で、様々な面白いサービスが溢れる世の中に気付けることです。それは必ずしもエンタメ領域だけではありません。例えば、普段宇宙というワードはなかなかビジネスにおいて耳にしない中で、「宇宙×エンタメ」を掛け合わせたらどうか、などという「我々が知らない領域×エンタメ」を創り出せることがこの仕事の面白いところです。
社内向けでは、常に多忙を極める現場に対して新しい何かを導入するというのはハードルがあるのですが、現場特有の課題を見つけソリューションを提供していけることにやりがいを感じています。最近では「こういうサービスない?」などと松竹内でも事業部の垣根を越えて聞いてきてくれるケースも生まれて、以前に比べ外部の力を積極的に取り入れるように変化してきました。、新しいことに挑戦できることと、変化をし続けるという会社の雰囲気はこれからも働きたいと思う理由と言えますね。
最近注目している業界
常に注目しているのはエンタメ業界で、その中でもIPを作れる企業に注目しています。松竹グループでもIP制作には100年携わってきた中で、思いもつかなかったキャラクターの生まれ方というのがここ数年で急激に加速しています。
例えば映画など何社か共同で制作していく場合、キャラクターを作っても一社だけのIPではないケースがあります。そのIPを使って新しいことを始めたいという場合に関連各社との交渉が必要になることがあるため、自分達でもそういった価値を作り出せる企業に注目しています。既存の概念に捉われないIPの制作に取り組む得意企業に会ってみたいと思っています。
編集後記
未知の領域とエンタメを掛け合わせる事でイマジネーションを起こし、「娯楽の可能性を引き出し、この世界をもっと面白くする」ことを目指す同社。既に第1弾のプログラムも進行し、新たなサービスが生まれようとしている今後の展開に注目です。
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