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会社が伸びるために全部やる。そしてリスクを一緒に|株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ【提携VC #6】

会社が伸びるために全部やる。そしてリスクを一緒に|株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ【提携VC #6】

更新日:2023.11.10  公開日:2020.11.25

VCインタビュー第6弾は日本初のハンズオンベンチャーキャピタル、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズの野本 遼平さんです。
弁護士としてのキャリアをお持ちの野本さんがVCになった経緯や、どのような経営者に惹かれるのかを聞いてみました。

野本 遼平(のもと りょうへい)
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ シニア・アソシエイト
弁護士としてスタートアップの支援に携わった後、2015年にKDDIグループのSupershipホールディングスに入社。
経営戦略室長及び子会社役員として、事業開発、戦略提携、M&A、投資、政策企画について、戦略立案から実行・PMIまでを統括。
2019年よりグロービス・キャピタル・パートナーズにて、スタートアップ投資・ハンズオン支援に従事。
著書に「成功するアライアンス 戦略と実務」(日本実業出版社)など。

インタビュアー
株式会社IPPO 山岸 耕
yutori、ペイミー、AppBrewといったスタートアップのオフィス移転を創業期から手掛ける。

キャリアを活かした幅広い活動

——どのような活動をされていますか?

野本さん:基本的には出資先との会議や新規投資検討のミーティングが多いですが、最近はリモート勤務が増えたので、オンライン中心で行っています。一時期、1日に5~6本行っていたのですが、オンラインだと集中力がもたないことに気付いたので4件以内にしようと決意していたのですが、結局なかなかスケジューリングがうまくいきません(笑)それ以外だと、毎週月曜日に社内全員が集まるMTGがあります。投資委員会は随時開催されていますが、火曜日には専用の時間枠が設けられています

アクセラレーターのメンターや、経産省・特許庁のプロジェクトにも入っていて、そちらの活動も並行して行っています。

——経産省のプロジェクトとはどのようなものですか?

野本さん:「オープンイノベーションを促進するための技術分野別 契約ガイドラインに関する調査研究委員会」というものです。

内容はその名の通りなのですが、オープンイノベーションを促進するためにAIやDeep Tech領域におけるモデル契約を作っています。弁護士資格を持ちつつ、VCとしてスタートアップとの関わりもあるためお声がけいただきました。

——幅広く活動されているんですね!やはり弁護士としてのキャリアがあるからですよね。

野本さん:そうだと思います。弁護士側のネットワークからは、投資家っぽくない形でスタートアップに関わるプロジェクトなどもお声がけしてもらっています。

1社のみや1つの業界ではなく、エコシステム全体に貢献したくて、直接的に投資活動に繋がらなくてもやることに意味があるかなと思って、現在もプロボノ的な活動を続けています。

たまにスタートアップの方から法律の相談も来ますが、もはや弁護士業はだいぶ過去のキャリアなので、法務相談などは本職の弁護士の方に相談することを勧めています。

——弁護士出身のキャピタリストって珍しいですよね。

野本さん:まだ日本では非常に少ないと思います。

僕は弁護士を経て、事業会社の経営戦略業務も経験しましたが、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)は弁護士はもちろん事業会社出身も少ないため、経歴的には社内で浮いていますね。でも、弁護士業も経営戦略業務も、構造化された議論が土台になるので、社内での投資検討のディスカッションなど個人的には違和感は感じてないです。

一方で、出資の決定は、最後はロジックではなくパッションだったりするので、そこがスタートアップ投資の面白いところだと思います。

スタートアップ投資は、これでいけるのではないかという仮説、あるいは証明したいという仮説はありますが、それが成り立ち得る確率なんて定量的にはわかりませんので。

キャピタリストは音楽プロデューサーに似ている?

——初めてのスタートアップ会社と会ったときは、どこを見ていますか?

野本さん:まずは経営者自身です

個人的には、能力・スペック的なレーダーチャートが全部綺麗に満たされている人よりも、何かが突出していて逆に何かが足りない、ちょっと歪なレーダーチャートの持ち主に惹かれます。そのうえで、その人がその事業をやりたいと思った理由や、その人の個性が反映されていそうな事業なのかどうかに注目します。

そして、「何を捨てているか」という点は個人的にとても気になります。言い換えれば、その事業のトレードオフを意識できているかということです。

全方位で無敵なプロダクト・サービスということは存在し得ないので、顧客セグメントやバリュープロポジションなど、何を捨てるかを意識して、逆に死守すべきものは何かを明確にすることはとても大事だと思っています。アプローチしたいユーザー像や解決したいペインの解像度が高いことが前提となりますが。

あとは、僕と気が合いそうかどうかという点も無視できません。伸びそう&儲かりそうな事業でも「一緒に飲みに行けないタイプだな」とか「腹割って話せなさそうだな」と思ったら躊躇してしまいます。

最近思うんですけど、この仕事って音楽プロデューサーの仕事に似てるなと。もちろん、僕は音楽プロデューサーなんてやったことないですけど(笑)

音楽プロデューサーにもいろいろなタイプがあると思いますが、客観的に一歩引いた立場から、曲や売り出し方について、アーティストの人生や個性が活きるように、声質からしたらこっちの曲調のほうがあってるのでは?」「20代以降のリスナーからは嫌われてもいいから、10代から圧倒的な支持をもらったほうがいいのでは?」「他のアーティストだとこういうパターンもあるよ」ってアドバイスするんだと思うんですよね、たぶん。

あるいは、バックミュージシャンが足りなかったら、アーティストと親和性の高い人を連れて来たり。

VCもこれと似たような役回りだと思うんですよ。だから最近、起業家と話すときには「自分はプロデューサーだ」と自分に向かって念じるようにしてるんです(笑)

事業の良い悪いをジャッジするのではなく、一歩引いた立場からその人の事業がより輝きそうな戦略やアプローチを考え、自分がプロデューサーとして貢献できそうであれば投資するし、逆に悪い部分やリスクもたくさん共有する。それが出来るようになるには個人間の信頼が必要なんだと思います。そういった信頼が構築できないなら、違うプロデューサーが担当したほうがいいですよね。

ただ、僕がその人をどんなに魅力的だと思ってもファンドとして出資できるかどうかは別の話です。LPからお金をお預かりしているVC業である以上、投資に関する規律はあります。

——資金調達を受けるためにこうした方がいいとかありますか?

野本さん:自分を偽らないのが一番大事かと思います。別の言い方をすれば、自分の弱みを見せられるかどうかということなのかなと思います。

To-Beの構想については思いっきり風呂敷広げてもらったほうがいいですが、As-Isについては背伸びせず、足りないものは足りないと明確にしたうえで、これだけギャップがあるけど何とかしたいと思っている、と腹を割って話してくれたほうが応援したくなります。

スタートアップは時間との戦い

——スタートアップは初動の速さが重要になりますか?

野本さん:そうですね。時間との戦いです。

キャッシュが尽きるまでに次のマイルストーンを達成しなければなりませんが、マーケットでの競合が現れたり、それこそコロナ禍が起きたり、アンコントローラブルなこともしばしば起きます。そういう想定外の事態が起きたときに適切に対処するためにも、PDCAを速く回していきたいところです。そのためには、事前にちゃんと仮説を持って、施策を打った結果を受けて、仮説とのズレを発見して軌道修正をしていく……という姿勢が大事なのかなと思います。

——実際出資してからのハンズオンはどんな感じで入っていくんですか?

野本さん:シード〜アーリーステージだと人手も足りませんし、プロダクトやビジネスを作ることに手間をかけている時期なので、例えばどのようなセグメントのお客さんにアプローチすべきかとか、どのようなKPIを追うべきかといったテーマから支援していきます。

特に意識しているのは、「何をやらないか」を決める手助けをすることです。ただでさえリソースが足りない一方で、起業家はアイデアや市場機会を無限に見つけてしまうものなので、一歩引いた立場から、やらないことを決める手助けをするというのは非常に重要だと感じています。

その他にもフェーズによっては、幹部採用の面談にも同席しますね。

基本的には、会社および事業が成長するために必要なことは全部やります。

——出資エピソードを教えてください。

野本さん:コミュニティ運営のプラットフォームの「OSIRO」というサービスがあります。

今こそコミュニティってたくさんの種類がありますが、その中でも特定の価値観を持つ人が集まっている場所がOSIROです。

それって需要あるのか?ってところなんですが、Twitterは怖いし、Facebookは真面目なことしか書けない…などと、SNSに疲れて、オンラインでの自分の居場所が結構無くなってきていると感じている人は増えていて、そんな中でこのようなサービスはニーズがあると思いました。音楽、アートなどのクリエイティブ系、特定の技能や世界観を持っている著名人やインフルエンサーなどがターゲットです。

OSIROの代表の杉山さんは元々クリエイティブ業界出身というのもあって、そういう分野での執念が凄いんです。完全に主観ですが、そういった情熱を応援したくなりました。

業務自動化ツールの「Anyflow」代表の坂本さんとはGCPに入る前からの知り合いで、前職の時にニーズのヒアリングにきたりしていました。

当時から物静かなんですが、すごいグリット力が高そうだな…とは思っていました。誤解を恐れずに言えば「死ななそう」という印象です(笑)

SaaSを多数導入した結果手作業が逆に増えている企業も多く、日本でも今後需要が高まりそうな事業だし、かなりコツコツと辛抱強く開発を積み重ねる必要がある事業なので、坂本さんの個性ともフィットしていると感じて投資を決めました。

昔から「人」が好きなんで

——VCになったきっかけはなんですか?

野本さん:VCってジャンルとしては金融業なのかもしれませんが、僕自身、あまり投資家志向ではないような気がしています。

ファーストキャリアでは弁護士をやりましたが、その理由は、個として人と向き合って貢献でき、そしてその結果バイネームで頼られる仕事がしたかったからです。人が好きでしたし。

弁護士業は、個と向き合うという意味で、働き方としては理想的でした。しかし実際働いてみると、性格的に向いていないことに気づきました。公園のベンチで数時間「自分、なんでこの仕事してるんだろう」と思い悩むくらい向いていませんでした(笑)

法務という特定領域じゃなくてもっと全体に関わる仕事のほうがワクワクするし、万が一のリスクをカバレッジするよりも、大きな可能性に向き合う仕事のほうが性格的に合うのではないかと考えていました。

そんな時に、周りの友達が起業したりしていて、ハードワークながらも前向きでめちゃめちゃ楽しそうに、エネルギッシュに働いている姿を見て「こっちの方がいいじゃん」と思いました。

個として働けて、起業しているいろんな人と関われる、しかも経営全般や経営者の人生に関与できる、そう言う仕事ってVCしか見当たらなくて。それでVCの世界へ入りました。

——VCになってみて感じたことってありますか?

野本さん:弁護士の後はKDDIグループで働いていました。事業会社で、規模も大きいので、仕事を進める上では社内外のネットワークやコミュニケーションがとても大事でしたね。

VCになってもそれは変わらないなって思いました。

士業だろうが大企業だろうがベンチャーだろうが、いずれもやっぱり人とのつながりが大事なんですよね。そういった関係性の中で仕事が生まれて、発展していくというものなので、本質的には何も変わらないのだなと感じました。

また、GCPにはベテランキャピタリストが揃っており、日々いろいろ学んでいます。本質的なポイントをズバッと指摘して、起業家の意思決定に影響を与えるようなことを目の前でやられると、感心すると共にちょっと悔しいですね。自分がコメントしようとしていたポイントを先に言われてしまったりするとなおさら(笑)

最近、音楽プロデューサー系の本を読み漁ったのですが、アーティストにその個性を発揮もらう、逆に大衆迎合させないようにするコミュニケーションが大事だという記述を複数見つけたのですが、そういうのもやっぱりVCと近いなと感じています。

——音楽プロデューサーの話で気になったのですが、「Nizi Project(ニジプロジェクト)」は見ましたか?

野本さん:実は今週全部見たんです(笑)見ないと世間に遅れてしまってやばいなと思って。(※取材日は10月上旬でした)

——そうなんですね(笑) 見てどう思いましたか?

野本さん:J・Y・Parkさんのフィードバックが非常に印象的でした。コーチングの世界でもよく言われているのですが「僕はこう思う」みたいな”Iメッセージ”が多いですね。

おそらく意識的に「僕は残念です」といった表現で、自分がどれだけ寄り添っているかを伝えて、相手に自覚や覚悟を促そうとしているのだなあと思って見ていました。

あと、絶対に可能性を否定しない点も徹底しているなと感じました。非難するのは、あくまでも努力の部分。

可能性があるのになぜ努力していないの?もったいないじゃん?というコミュニケーションが多かった印象です。やはりベンチャー支援と似ているなと思って見ていました。

——次のキャリアなどは考えていますか?

野本さん:アイドルグループをプロデュースします。というのは嘘ですが、僕は運とか縁には逆らわず、その時点で求められていて、かつ面白そうなことを全力で楽しみながらやる派なので、キャリアとかは考えないようにしています。

意識的に選んだ弁護士という最初のキャリアは、結局向いていませんでしたし。そして弁護士時代に、まさか自分がVCになるなんて1ミクロンも思っていませんでしたし。

そんな自分がいつの間にかVCをやっているので、人生って不思議だなと思うとともに、自分のキャリア設計能力の低さを痛感しています。ですので、今後も運とか縁に身を委ねていきます。

今注目していること

——仲良くしているVCさんはいますか?

野本さん:同志的な繋がりでいうと、YJの大久保さんやジェネシアの水谷さんは、案件の関わり全く関係なく繋がりがあります。

EVの金子さんともたまにメッセでコミュニケーションとらせてもらったりしていますね。

——注目しているVCはありますか?

野本さん:株式会社デジタルベースキャピタルは集客力も強いし、大企業側もコンサルとしてガッツリ入っていて新しいスタイルで注目しています。

JAFCOの坂さんにも注目しています。投資担当からベンチャーと大企業を繋げるようなファンクションをJAFCOでは取り組まれているようで、一緒に登壇したセミナーなどでそんなお話を聞いて面白いなと思いました。

伝統的なVCの付加価値はキャピタリストの先輩たちによって既に作られているので、VCという枠に囚われずにエコシステムに貢献していく取り組みは模索していきたいですね。

——注目している業界はありますか?

野本さん:何かを効率化するのを超えて、新しい文化を作り得る企業を応援したいなと思っています。

動詞化するようなサービスや、行動様式や働き方が変わるようなサービスですね。例えばメルカリって、家の中でも日常的に会話に出てくるようなサービスですし、SlackやChatWorkも、もう当たり前になりましたよね。

大学院の同級生の橘が責任者をやっているクラウドサインとかも、そのポテンシャルがあるかもしれません。

——訪れたことのあるオフィスで印象的だったオフィスはありますか?

野本さん:日本を芸術文化大国にするというコンセプトを掲げているだけあって、OSIROのオフィス内には無造作にアートが飾られていて、常にアートに触れられるので好きですね。文化がオフィスに表れています。

(画像を見て)そうそう、これです。これがまた良いんですよねー。この大きいオブジェなんて机一人分以上あるんですよ。

スタートアップって合理化や効率化を進めるのが基本路線ですが、こういう非合理なところも少しは残していきたいですよね。

もう直ぐオフィスを移転するんですが、引越し作業大変そう(笑)

編集後記

起業家やVCの方に「今注目のキャピタリストっていますか?」と聞くと、野本さんの名前を聞くことが多く、その注目度の高さからVCインタビューをお願いしました。

キャピタリスト2年目にして注目されているのは、人柄だけでなく、過去の経歴を活かした幅広い活動が既に知られているのだと、このインタビューを通して分かりました。

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