VCインタビュー第10弾は、アジアの革新的なデジタルビジネスを手がけるスタートアップに出資とバリューアップ支援を行っている株式会社ジェネシア・ベンチャーズの水谷 航己さんです。
商社出身である水谷さんの日々の業務、投資に関する想いなどを聞いてみました。
水谷 航己(みずたに こうき)
株式会社ジェネシア・ベンチャーズ Investment Manager
2013年4月、住友商事株式会社に入社し、リスクマネジメント部に配属。
再生可能エネルギーを含む国内外の大型発電事業案件に関する経済性や、リスク定量化分析を通じた意思決定サポートを担当。
また、投資成功確率の向上・M&Aプロセスの高度化を目的に社内の意思決定プロセスの見直しを実施するなど投資の意思決定精度の向上に寄与。
2015年には、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に出向し、複数業界におけるM&A案件の財務DD及びValuation業務に従事。
2016年からは住友商事に帰任し、金属事業部門のリスクマネジメント担当として、国内外の自動車部品製造事業、金属加工事業のM&A、与信管理、投資先事業会社支援に従事。
2018年7月より株式会社ジェネシア・ベンチャーズに参画。東京大学 法学部卒。
インタビュアー
株式会社IPPO 山岸 耕
yutori、ペイミー、AppBrewといったスタートアップのオフィス移転を創業期から手掛ける。
この記事の目次
シード・アーリーステージでの出資を行う、独立系VC「Genesia Ventures」での業務に関して
——水谷さんは普段どういった業務をされているんでしょうか?
水谷さん:既存の支援先に約7割、新規での投資検討に約3割の時間を充てています。既存の支援先では、自分はメインで12社、サブで13社を担当させて頂いています。
各社とは、月一程度の定例MTGに加えて、これからファイナンスを本格化していくタイミングや、組織強化が急務となっている時、またPRの準備を進めていく時などに、集中的に作戦会議を行っています。特に、支援先がファイナンスを進めているときは、ピッチ資料の構成の検討から事業計画の精緻化、契約の調整まで、それぞれのステップでスピード感のあるやりとりが必要となることも多いです。
——打ち合わせをしてから出資までのスピードはどのくらいかかるのでしょうか?
水谷さん:新規投資を検討させていただく際もスピード感のある意思決定をできるように心がけています。ジェネシアとして、3週間程度でコミットメント、タームシートを出すことができるよう努めています。
また、自分が担当するのであれば2週間程度でいければ、と思いながら頑張っています。
——ええ?!そんなに早いんですか!
水谷さん:シードフェーズの場合、即日で投資の意思決定をするVCやエンジェル投資家も多いです。
数ある投資家がいる中で選ばれるVCになるためには、スピード感のある意思決定が求められるフィールドです。
一方で意思決定においてスピードと質の高さをトレードオフにしないよう、初めてお会いする起業家との打合せ前には、ピッチ資料を読み込んで業界を調べたり、ターゲットにするユーザーの課題欲求についての理解や、GoToMarketの戦略について、個人としての仮説を持ちながら臨むように準備しています。
——初めてジェネシアから出資するとなった際はどのようなフローで進むのでしょうか?
水谷さん:いくつかパターンはありますが、初回の打合せは各キャピタリスト個人が打合せをさせて頂き、その後にGP(General Partner)の田島、鈴木を含めてチームで仮説構築のプロセスを進めていきます。
チーム内のディスカッションの中で出てくる論点については、最初に応対したキャピタリストから起業家とやり取りをさせていただくことが多いです。
論点がある程度クリアになってきたタイミングで、ジェネシアのメンバーとの相互理解を深めることを目的に、事業についてのディスカッションの場を設けています。
他のVCでは一般的に「投資委員会」のような位置づけのステップではありますが、ジェネシアとしては、あまり投資委員会としての色合いを前面に出しているわけではありません。一方的に投資家側が選ぶという格好よりも、お互いが選び選ばれる関係性を志向したいと考えているからです。
GPや担当キャピタリストだけでなく、ジェネシアの他のメンバーの様子についても起業家に見てもらい、「ジェネシアを同じチームに巻き込んで一緒にチャレンジしたい」と思ってもらえる機会にできるよう、場創りは意識はしています。
——キーワードとして「お互い選び選ばれる関係性」という言葉が出てきましたが、意思決定としては最終的には起業家の方がジェネシアのオフィスに訪問して、社内環境なども見ながらディスカッションするというイメージでしょうか?
水谷さん:はい、そうですね。コロナ禍ではZoomで実施していますが、実際に対面して、ジェネシアメンバーの自己紹介からスタートするような感じですね。
——なるほど!それは出資を受けるサイドからするとすごく魅力的ですね!
水谷さん:ありがとうございます!でも実際、個人の中で出資したいかどうかは最初にお会いした時に8割方、決まってしまうことが多いです。
お会いする前に資料を共有してもらい、事前に拝見させていただきながら、「この業界ってこんな構造になっているのか」「その中でポテンシャルユーザーの課題は深そうだな」「プロダクトにこんな発明があるのか」「GTMの狙いどころが面白い」といった積み重ねがあって、自分としてもいいフィーリングの状態で起業家さんに対面して、起業家の方から気持ち良く挨拶してくれたりすると、もうそこで「素晴らしいな」って感じます笑
ただ、会社として質の高い意思決定を担保していくために、もちろんその場でコミットすることはしないですが、前向きに進めたいという気持ちに関しては早い段階でオープンにするよう心がけています。
水谷さんが出資の際に重要視しているポイント
——初めて起業家の方からお話を聞く際に特に意識しているポイントはなんでしょうか?
水谷さん:ジェネシアのメンバーによっても違いはあるかと思いますが、意識をしているのは、サービスがターゲットにしているユーザーの課題、何に悩み、何を不安に思っているのかを中心に聞くようにしています。
ジェネシアの投資対象としているゼロイチのシードフェーズだと、ローンチしたサービスが決して仮説通りにはユーザーに使われない、というケースも多々あり、どれだけ緻密に仮説を練っても実際にローンチしないとわからないことも多いです。ただ、顧客の課題が大きければ、アプローチを軌道修正し、適切に顧客の課題を捉えなおしていくことで、ゼロイチを乗り越えることは可能と考えています。
よく例えに挙げられる話では、「山の登り方」を間違えることはあっても、「登る山の大きさ」は決してぶらさないように意識をしています。その前提で、その山を登りたいと自分自身が思えるかどうかも大事と考えています。
顧客課題を理解できれば、その課題に対するソシューションの在り方や、マーケットの中でどの顧客セグメントから山を登るのかについてのディスカッションして戦略を立てていきます。
ただしこれは先ほどの話の通り、やってみないとわからない事も多いです。その中で、走りながら適切に軌道修正をしつつ最適解を見出すことができる経営チームであるか、というのが次に大事になってくると考えています。
打ち手の引き出しを多く持てているかや、他社事例などを貪欲に学ぶラーニング・アニマルかどうかという点を、会話の中から感じ取りながら考えています。
——マーケットというキーワードで言えば、シード期の事業構想における市場規模ってどのくらい重要なんでしょうか?
水谷さん:戦うマーケットや、サービスとして見込むことができる市場規模は当然大事ではあるんですが、試算される数値自体は、シード期においてはそこまで気にしていないです。もちろん教科書的に、ターゲットになるユーザー数や単価から市場規模の試算を検討過程では行いますが、「そもそもそのサービスは使われるの?」という本質的な課題の深さの方が重要と考えています。その前提で、計算するまでもなくデカいと感じられる領域でチャレンジをする、というのがシードフェーズだと特に大事になってくると感じています。
「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げるGenesia Venturesについて
——ここからは会社について詳しく聞かせてください。まず、会社全体としての投資方針はどのようなものなのでしょうか?
水谷さん:ジェネシア(Genesia)は、「ジェネシス(Genesis)」と「アジア(Asia)」の造語でして、「アジアの創生を担う」という意味を込めた社名で、アジアで持続可能な事業を作っていくプラットフォームになるというのが大きなテーマとしてあります。
ドメインとしては既存産業×テクノロジーの領域で、産業のDXを推進するスタートアップが全体の7割ほど。残りの3割は、デジタルテクノロジーを活用したニューエコノミーやメディア・エンタメの領域でチャレンジをするスタートアップに投資支援をさせて頂いています。
いずれのドメインであってもユーザーの深い課題欲求に根ざしたサービスであれば、事業規模も大きなものになると考えており、やりきったときの社会的インパクトも大きくなっていく点も、意思決定に当たっては大事にしています。そう言った意味では、大きな事業を目指すデジタルビジネスであれば基本的に全てターゲットになるかと思います。
——LPさんだったりとのシナジーなどは投資にどの程度影響があるのでしょうか?
水谷さん:投資の意思決定に関しては、完全に独立しています。
ファンド出資の内訳としては、金融投資家と事業会社が半々の比率でLP出資を頂いています。事業会社については、スタートアップ連携やオープンイノベーションに積極的な企業に各業界から一社ずつ、参画いただいています。
我々はシードステージのベンチャーキャピタルという事もあり、投資を受けてすぐに大企業連携を進めていくというケースはそこまで多くはありません。一方、シードステージの段階から双方間で関係を構築しながら、準備ができたタイミングでスムーズに連携を始めていくという事例も複数出てきています。
ジェネシアがシードで投資をしてからシリーズAやシリーズBのタイミングで、LPさんと資本・業務連携を開始するというケースは増えており、オープンイノベーションの橋渡しをさせて頂いています。
——ジェネシア社は海外メンバーなど多様なメンバー構成のチーム体制だと思うのですが、どのような棲み分けになっているのでしょうか?
水谷さん:エリア的な棲み分けは日本、ジャカルタ、ベトナムという形でやってはいますが、それ以外の棲み分けはあんまりないですね。各自がそれぞれやりたい領域を適宜、担当するという感じです笑
でもなんとなくカラーはありまして、例えば一戸であれば若手の起業家やC向けをメインに取り組んで、発信を強化しています。
また、相良は前職がトレジャーデータ社のセールスという事もあり、データ活用やSaaSのノウハウ持っていたりするのでその領域が強かったり。私は元々商社で電力や製造業をやらせていただいていたので、ヘルスケアや建設・不動産などの業界特化型のサービスを担当することが多かったりしますね。
とはいえ、それぞれのメンバー間で決まった役割はなく、本当になんでもやっています笑。
そして、キャピタリストとは異なる立ち位置のマネージャーとして、二人の吉田がおりまして。リレーションシップ・マネージャーの吉田愛は支援先向けのPR支援やHR支援を軸に活動しています。
強い組織作り、ファン作りのお手伝いですね。ゼロイチで知名度もブランドも何もないスタートアップのチームの土台として、CI策定のサポートに入ることで、将来の組織作りにレバレッジが効くようなサポートをしています。
ポートフォリオ・マネージャーの吉田実希は、実は私の大学時代からのサークルの友人だったんですが、久々に会った際にキャリアの話になり、ここぞとばかりに自分から声をかけてジョインしてもらいました。主にファンドレイズ、ファンドに投資していただいているLP投資家さん向けのコミュニケーション、ファンドの監査、決算対応、ガバナンス関係などを色々整理してくれているな役回りです。彼女がいることで、我々は投資をすることができています。
元々は私がポートフォリオ・マネージャーとキャピタリストを掛け持ちする形で業務を行っていたのですが、投資先の社数が増え、運用総額やLPの数も増えてきたところで、より金融の専門的なバックグラウンドを持っている彼女に入ってもらい、引き継ぐことができました。
——吉田さんは水谷さんの紹介で入社されたんですね。
水谷さん:そうなんです。ちょうど彼女が育休産休に入っているときに、転職を考えているとのことだったので、「うちにきなよ」と笑。無事に入社してくれて、今では大活躍してくれています。
——投資先に対して投資して終わりではなく、全社的にサポートされているんですね。
水谷さん:投資してからが始まりです。
担当が1人で支援するというより、チーム全員で支援に当たるというのはジェネシアの思想としてあるかと思います。主担当と副担当がいて、主と副のどちらかにパートナーが入るような形で支援をさせていただいています。そのため、基本的には2人がカウンターパートとして担当する形にはなりますが、担当外であっても、例えば、セールス組織の立ち上げということであれば相良が相談に乗ったり、商社との仕事の進め方について聞きたいというニーズがあれば水谷が打ち合わせに参加したりします。
メンバーのそれぞれが持っている経験やノウハウを担当に関係なく、チーム全体で共有できるようにしています。
——こうして直にお話を聞いていると組織としてのチームワークのよさを感じますね。
水谷さん:そうですね、適度な緊張感と心理的安全性とのバランス感を実現できているといいですね。
水谷さんのこれまでの経歴やVCになった経緯とは?
——水谷さんは商社に勤務されていたとのことなのですが、VCをするにあたって活きていることはありますか?
水谷さん:ハードスキルのところについては、全然畑も違うのでどっちかといえばアンラーニングをしたなと思ってます。
商社でも投資の仕事をしていたのですが、投資の考え方は根本的に違っています。過去の実績を踏まえて事業計画をかっちりと創り込み、コーポレートファイナンスの考え方に則りながらキャッシュフローと期待リターンのバランスをみて、意思決定を進めていくような形でした。
もちろんこれも大事ですが、現在、ジェネシアで投資に当たっているシードフェーズだと、そもそも過去の実績などなく、事業計画を精緻に作り込んでもあまり意味がありません。
投資をしてから、どのようなメトリクスを一緒に創っていくことができるかが重要になってきます。「数字を評価する仕事」から「数字を創る仕事」への変化に際しては、これまで身に着けてきたことを活かせず、若干のもどかしさもありましたが、意識してアンラーニングしていきました。
ただ、ソフトスキルのところでいえば商社にいた経験が非常に活きていると思います。ビジネスの土台になる部分の、仕事の進め方はもちろん、社内外の方々との関係構築のところで、「よしなに物事を進める」チカラは、商社で鍛えられてきたと思います。また、商社に入ってすごくよかったと思うのは、世界中の様々なモノの流れについて少しでも理解をすることができたことです。
例えば今、部屋を照らしている電気ですが、電気を運ぶ電線を作っている金属加工工場、電線の原材料となる線材を製造する鉄鋼メーカー、発電所を開発するプラントエンジニアリング会社、発電に必要なエネルギーの調達、またエネルギーを採掘するために必要な資機材、エネルギーを海外から日本に運ぶための船舶など、本当にたくさんの商売が関わりながら、部屋を明るく照らすことができています。こういったリアルなもののダイナミックな商流は、商社に入っていないと理解できなかったと思いますし、グローバルなビジネスの奥行きの目線を持てたことは、現在、様々な事業の経営を考えていく上での糧になっていると感じます。
またそれに加えて、商社にいる人は、シンプルに面白かったということもあります笑
このような経験があったので、既存産業領域をサポートする時にその業界はどんな構造になってるのか、何に苦しんでるのかなど、その領域でチャレンジしようと思っている起業家の想いに、誰よりも早くリアルに共感できるキャピタリストになれればと思っています。
——その後はなぜVCになられたんでしょうか?
水谷さん:転職直前に担当していた業界は自動車部品の製造や鉄鋼流通に関わるところでした。その前までは、電力・インフラといった業界も担当していたのですが、巨大産業の中で、1取引当たりの金額も大きく、産み出す雇用の数も非常に多いわけです。非常に重要な社会の基幹産業に関わる仕事には、大きなやりがいも感じていました。
一方、歴史の長い業界の中で、オペレーションが高度に発達しており、20年や30年の間、同じ業界に勤めるプロフェッショナルもゴロゴロいる。そのなかで5年やったところで、まだまだ若手。責任をもって大きな事業の経営にあたるまでには長い時間を必要とします。
自分としては、もっと自分のリアルな意思を持って、投資や事業経営の意思決定に近いところで仕事をしたいと思うようになり、また、自動車製造や電力のような大きな産業を新しく創っていく領域でのチャレンジがしたいと思ったところ、VCの仕事は非常に魅力的に感じて転職活動を始めました。
出資した際のサポート体制や具体的なサポート内容
——再度ジェネシア社での業務について聞かせてください。出資した後に関しては具体的にどのようなサポートをされているのでしょうか?
水谷さん:リード投資家として支援参画をさせて頂いてはいますが、とことんハンズオンで支援先の社内オペレーションに入り込む、ということはありません。個社ごとの状況に応じて、定期的に打ち合わせをさせて頂いたり、集中的に経営合宿やロングミーティングを開催したり、メンバーの方との1on1を設けたり、という形で、その時々において、必要となるコミュニケーションを適時にとることができるように準備をしています。
経営判断においては、事業の成長にレバレッジの効く選択をし続けられるかが重要で、そういった思考を経営チームが強化し続けることができるよう、事業としての優先順位付けやファイナンスはもちろん、組織創りやPRも意識して含めてサポートするように心がけています。
——出資はシードからプレシードAあたりがメインでしょうか?
水谷さん:そうですね、シリーズAを初回投資にはしないというスタンスを徹底していて、最近だと、シードから支援をさせて頂くことが増えていますね。
会社設立前後のタイミングでお声がけいただくことも多いです。
——出資の額で言うと最初の数千万などを集中的にやられているのでしょうか?
水谷さん:現在の二号ファンドですと、初回の平均投資金額は5千万円超となっています。レンジとしては、数千万円台前半から、1億円超となります。
その後、フォローオンでの追加投資も積極的に検討させていただいており、1社あたりの累計投資金額としては、1億から1億5000万ぐらいが今のところ多くなっています。
2号ファンドのこれからの動き
——2020年10月に2号ファンドが募集が終わったとのことで、ここから2号ファンドの動きをお伺いさせてください。
水谷さん:2018年12月に始まった2号ファンドですが、無事に2020年10月末にファイナルクローズを迎えることができました。
ジェネシアと志を同じくするLP組合員の方々から、コロナの中でも信じてお金を託していただきました。しっかりと頑張っていきたいと思っています。精力的に投資活動中です!笑
——どのタイミングぐらいまで2号ファンドの運用になるんでしょうか?
水谷さん:1号ファンドが2016年の12月、2号ファンドが2018年の12月にそれぞれ立ち上がっておりますが、2022年までは、2号ファンドから投資継続をしていくと考えています。
——2号ファンドにあたっては1号ファンドと方針が違う点もあると思うのですが、その辺りはいかがでしょうか?
水谷さん:一社当たりの投資金額が増額されたこと以外は、ファンドのコンセプトとして、あまり大きな変化はありません。しかし、この数年のトレンドの中で、投資対象となるビジネスモデルとしては、いわゆるOMOと言われるような事業モデルでチャレンジをするスタートアップがとても増えていて、デジタルを起点にユーザー体験を再設計、リデザインして新たな付加価値を提供している企業です。そのようなスタートアップに2号ファンドでは多く投資支援をさせていただいています。このトレンドは、日本と東南アジアのいずれにおいても当てはまります。
——2年前のマーケットや経営者の質の変容はどのぐらいあるものなのでしょうか?
水谷さん:VCマーケットの変化としては、シードVCのファンドサイズも巨大化していることで、シード期のスタートアップでも、初回の調達金額が上がっているように考えています。シードでいきなり1億円オーバーの調達は、以前はそこまで多くなかったと思いますが、今では1ヶ月に1、2件は出てきているんじゃないかなと。
ただ、金額の多寡はあまり重要ではなく、3千万円から5千万円の資金調達であっても、シリーズAに向けて十分に様々な仮説検証はできると考えています。
日々の業務で水谷さんが感じる大変なこと
——少し毛色が変わる質問なのですが、この業務をしていく中で大変だったことなどの苦労話などをお伺いできますか?
水谷さん:日々苦労しています笑
逃した魚は大きかった系の話であれば、自分が投資したいと思った先に色々な事情が重なって投資できなかった時はかなり辛いですね。投資できない、また投資家として選ばれないというのは、そもそものスタートラインにすら立てていないということにもなるので。
ただ、一番大変で時間も使っているのは、勿論、投資をしてからになります。
支援先の事業仮説が想定通りに進まないことは多くありますが、次のファイナンスに向けた時間的な制約もあるなかで、常にヒヤヒヤしながら、必要となる解決策を次の打ち手として考え実行するを繰り返すサポートをしています。特に、組織関連の課題になると、全当事者が一生懸命だからこそ、メンタルコストも重くなることが多いです。
——私自身数字を追う営業の立場なので、すごく心配になりながら過ごす週末などもあります。 VCさんだとそのような事ってどんなポイントで出てくるんでしょうか?
水谷さん:そうですね、支援先の追加ファイナンスが決まるかどうかは特にドキドキしながら支援をしていますね。
事業の強みや今後の可能性について、適切に伝えることができているか、条件面はどうなるか。しっかりと次ステージのVCにファイナンスを繋げていけるよう、常に緊張感を持ってファイナンスをサポートしてはいます。
出資した会社さんとのエピソード
——出資した会社さんとはどのように出会うのでしょうか?
水谷さん:私が担当として2020年に出資させていただいた先の半分は、私からSNS経由でのDMで、もう半分は共同投資をよくするエンジェル投資家さんや仲のいいVCからの紹介でした。
ファイナンスニーズのない、利害関係がまだ生じていないタイミングのときから、始めましての自己紹介をさせていただいて、食事をご一緒したりさせていただきながら、タイミングがきたら投資検討するという流れもありました。
——水谷さんからアプローチされているんですね。出資が決まった会社さんの例を教えていただくことはできますか?
水谷さん:ヘルスケア領域でチャレンジしているActivaidの長谷部さんには、水谷からtwitter経由で連絡をさせて頂きました。
Activaidは、患者会のデジタルネットワーク化を通じて、難病患者さんの疾患状況に係るデータプラットフォームの構築を目指しています。
根治が難しい難病用の高額薬が話題にもなっていますが、長谷部さんのアプローチは、患者さんによって入力されている症状などのPatient reported outcome(PRO)を中心としたデータを医療機関と共有することで、QoLの改善や医師患者間のコミュニケーションの促進をサポートしていくものです。参入障壁は非常に高いビジネスですが、長谷部さんのこれまでのキャリアと情熱を持ち合わせているからこそ可能となる壮大なチャレンジです。
DMから初回の打合せの場を持たせていただいてから半年後ほど経過したときに、ファイナンスするんでという連絡をもらって、2〜3週間でコミットまで持っていったとプロセスを記憶しています。
あとは、わたしからのDMではないですが、YJキャピタルの大久保さんからご紹介頂いて、投資をさせていただいたmiiveという支援先があります。こちらは、リモートワークにも対応した、プリペイドカード型の福利厚生サービスを開発しています。
プロダクトをこれから開発していくような仮説しかない段階での投資検討でしたが、サービスの発想のユニークさとユーザー目線でのプロダクトの優位性の解像度の高さから、投資支援をさせて頂きました。
コロナにより働き方改革が一気に進む中で、これまでの福利厚生サービスではカバーできない従業員への福利厚生ニーズが顕在化しているかと思います。そういったニーズをいかにデジタルを起点に解決し、従業員が使いやすい福利厚生サービスを作るかことができるかというチャレンジをしています。
水谷さんの今後の展望や気になる業界、仲のいいVCさんについて
——次のキャリア、今後したいことなどがあれば教えてください。
水谷さん:うーん、実はあまり考えていないんですよね笑。今決めていることは1つで、担当している先がある限り、そしてクビにならない限りは、ジェネシアでVCやり続けたい、ということです。なので近い将来動くというようなことは全く考えていないです。
キャピタリスト仲間との話の中では、今いるVCで続けるか、転職するか、独立するかといった話題はよく出るものですが、個人的には、ジェネシア以外のVCで活動するイメージはあまり持っていないです。ファンドとして目指しているビジョンやミッションへのシンクロもそうですし、他のメンバーとビジネス的なジャッジメントが近いことも大きいです。
自分としては、ジェネシアが最初のVCでよかったと思っています。
——なるほど、それはすごくいいですね。仲のいいVCさんは他にいらっしゃいますか?
水谷さん:個人的に仲がいいのは先ほども出たYJキャピタル大久保さん、GCP野本さん、オンラボ佐藤さん、インキュベイトファンド種市さん、楽天キャピタル大竹さんなどは最近定期的にやりとりしていますね。
Activaidへの共同投資でご一緒しているアーキタイプの福井さんや伊能さん、また、miiveやタイミーでもご一緒しているCAC北尾さんなども、よくやりとりをさせていただいており、学びも多いです。ITVさんもオフィスが近く、とても仲良くさせてもらってます。
ファンドとしての共同投資でいうと、シリーズA以降、ジェネシアだとスパークス未来創生ファンドさん、ジャフコさん、Global Brainさんとご一緒させて頂くことが多いかと思います。
——注目していたり気になっているVCさん、会社などはありますか?
水谷さん:リード投資を行う独立系のVCさんの動きには全て注目しています笑 。また、気になっている会社さんでいうと、三菱商事さんのデジタル部隊ですかね。2019年にMCデジタルという会社を設立しているんです。エンジニアを内製し、投資と組み合わせて事業開発を進めていく流れは商社のトレンドでもあるんですが、表立った活動をあまり耳にすることがなく、とても気になっています。
——最後に弊社はオフィス仲介を行っているのですが、今まで水谷さんが訪問した中で特に印象に残ったオフィスがあれば教えてください。
水谷さん:支援先のACALL社です。受付管理や会議室予約を含めた次世代のエンタープライズオフィスの基盤を支えるWorkstyle OSを開発しているスタートアップで、オフィスは神戸にあるのですが、顔認証で自販機から飲み物が出てきたりと、未来のオフィス体験が可能です。
“Practice and Spread New Workstyle”というミッションを掲げ、「自らがいち早く新しいワークスタイルを実践し、試行錯誤した経験を社会に発信」することを心がけている同社のオフィスがモデルとなって、今後、多くの企業にWorkstyle OSが搭載されていくと考えています。
編集後記
インタビューを初めて数秒、水谷さんの声が想像の倍くらいとても元気よくて大きかったです笑。実はYoutube動画も他の方よりも少しボリュームを抑えているのはここだけの話。お話伺っている側なのに気づいたらこちらが笑顔にされるとても話しやすい魅力を持っている方でした!
自分が相手にどんなバリューを出せるのか?を常に大事にしていらっしゃるのか、インタビューの中からも垣間見え、とても印象的でした。
水谷さんと伴走したいという経営者の気持ちがとてもわかるお人柄でした!
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株式会社IPPO(イッポ)ではオフィス移転を単なる「引っ越し」ではなく、企業価値を高める「重要なプロジェクト」のひとつと考えています。
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