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2008年に設立し、シード期のスタートアップ企業を支援するVCとして活動を続けて今年で16期を迎える株式会社サムライインキュベート。日本だけでなくイスラエルやアフリカなど国内外に投資を行う同社でFund Controllerを担う久保氏にインタビューを行いました。
株式会社サムライインキュベート
Fund Controller
久保 浩成 氏
株式会社サムライインキュベートについて
特徴・強み
弊社は2008年に設立しました。シード期のスタートアップ企業を支援し始めましたが、当時は事業アイデアベースの段階で投資をする投資家は個人を含めあまりいない状況だったため、VCとして珍しい立ち位置だったのではないかと思います。スクラッチからサービスインするまでを徹底伴走し、その中でゼロイチのノウハウの積み上げができました。
キャピタリストごとに自身の経験を元にした強みがあり、その特性を活かして投資先の支援を行っています。弊社はこれまでにファンドを9本運営しており、その中でキャピタリストの持つネットワークを活かし、起業家や大企業、行政機関などと広範なリレーションが構築できたことが勝ち筋となっています。例えば6号ファンドは建築や物流、リテールなど各分野の大企業にご支援をいただき、オープンイノベーションの文脈で支援を行っています。
また、弊社のミッション「できるできないでなく、やるかやらないかで世界を変える」を軸に、現在はイスラエルやアフリカでも投資を行っていますが、元々は日本特化で活動をしており、当時はVC業界の先駆者のような立ち位置で投資はもとより様々な取り組みを行っていました。例えば、寺田倉庫株式会社との連携で天王洲にコワーキングスペースを開設したり、トーマツベンチャーサポート株式会社との連携で47都道府県でピッチイベントを開催していました。今でこそVCがコワーキングスペースを開設したり、ピッチイベントを開催するのはよくある話ですが、当時の日本では珍しかったと思います。その他、大企業とのリレーションでは、日本アイ・ビー・エム株式会社(IBM)と連携してアクセラレーションプログラムを行ったのも弊社が先駆けかもしれません。
上記のような活動を行った結果、他のVCに比べて地方案件が多いのも特徴であり、現在のスタートアップランウェイの取り組みなどにも繋がっています。また、先駆的に様々な施策に取り組んだことで、シード領域でのナレッジや経験が蓄積し、日本でのノウハウを持ち込んでイスラエルやアフリカなどの海外でトライすることができました。
投資先のターゲット
設立当時はシードがメインでしたが、現在はシードからプレシリーズA/Bにまでターゲットを広げて投資しています。引き続きシード投資を中心としていますが、ファンドのサイズが大きくなったことで、シリーズA/Bまでフォローオン投資が可能な体制となっています。また、他の投資家とのシンジケーションにより投資を行う事例も増加しています。
IT領域に多く投資していますが、基本的にはゼネラルに投資を行っています。統計的に見るとエンタメや教育分野への投資が多く、サブスクの領域ではIPOなどの実績も出ています。6号ファンド以降ではLPとの連携により、物流や建設分野、技術系のスタートアップへの投資にも注力していますが、基本的にキャピタリストのケイパビリティや注目する分野に合わせて投資領域を決めています。新しいファンドではヘルスケア分野への投資も検討しており、ファンドや投資環境に応じて投資戦略を見直しています。
久保氏について
VC業界で働いている理由
サムライインキュベートに入社した理由は、VC業界に強い関心があったことはもちろんですが、中でもサムライインキュベートが他社と比べて、野心的でありながら、愚直に起業家を支援し、世界を変えようとしている姿に魅力を感じたためです。
VC業界に興味を持ったのは、新卒で入行した銀行での経験がきっかけでした。20代の若手銀行員が何十年も事業を営んでいる経営者に対し、会社経営についてアドバイスをすることに違和感を感じ、より経営に近い経験を積みたいと思っていた時にVCへの出向の機会をいただきました。同じ時期にサムライインキュベート主催のピッチイベントが47都道府県で開催されており、高知県でのイベントを手伝うことになったのがサムライインキュベートとの出会いです。
そのイベントには地元の中小企業経営者やシリアルアントレプレナーが審査員として参加していましたが、起業家に対し、評論家のようなコメントをしていました。一方で、弊社代表の榊原はいかに起業家を成功に導くかを大切にし、批判ではなくアドバイスを贈る姿に大変共感したのを覚えています。
その後、銀行での経験を踏まえ、スタートアップ支援にどっぷりと浸かるためにVC業界への転職を悩んでいた時に相談をしたのが榊原でした。家族を連れての新しいチャレンジに不安を感じていた私の背中を押してくれたのが榊原の「Goアクション、Goチェンジ」の一言でした。結果として、VCではなく独立行政法人中小企業基盤整備機構に転職をしたのですが、中小機構は日本の様々なVCファンドに出資しており、全ての投資委員会にもオブザーバーとして参加していたため、VCの生態系や意思決定の背景を学べる環境だと知り、「ここだ」と感じて入構を決めました。そして、入構後最初に担当した審査案件がサムライインキュベートのファンドでした。これにより榊原との関係がさらに深まったのではないかと思います。その後、サムライインキュベートが組織再編を向かえた頃から榊原から「一緒に活動したい」という声をかけてもらうようになり、随分と待たせてしまいましたが、その熱い思いに共感したのと、サムライインキュベートの可能性を感じ入社を決意しました。
投資先との付き合い方
ファンドコントローラーとして会社の財務管理やファンド管理などの管理業務全般を担当しているため、起業家や出資者の方々とのコミュニケーションの機会が多いですが、これまでの経験を活かして行政機関や金融機関との連携強化を意識しています。起業家の資金調達支援はもとより、勉強会の実施によるナレッジの共有などにも取り組んでいます。
また、スタートアップ企業の多くはIPOを志向し、事業成長を目指していますが、その過程で発生する資金調達や法務/税務への備えが十分ではないことが多々あります。資金調達一つをとっても資本政策の立案やデット・ファイナンスとエクイティ・ファイナンスの違いなどから議論したりしています。
実際に投資先から相談を受けることが多いのは、会社設立時を含め、株主総会や決算手続きなど何をどのように対応したらよいかといったことや、契約の内容についてどこを注意してみたらいいのかわからないなどの内容です。特に創業当初は人員も少ないため、事業に集中してもらうため、そして不要なリスクを排除していくために、そういったところから丁寧にケアしていくことが大事だと感じています。加えて、銀行や投資家とは情報格差があるため、コミュニケーションを取る際にかけ違いのないように翻訳を加えることも重要だと感じており、フェーズに応じて粒度を変えながら対応しています。
これはVCとしての投資活動の本丸ではありませんが、会社の設立からシード期を中心に支援を行ってきた弊社ならではの強みの一つでもあると感じています。自分自身が起業を経験したことがあるわけではないですが、VCとして擬似的にその体験をさせてもらったことで、その経験が蓄積されて投資先に提供できるようになったのかもしれません。
最近注目している業界
個人的には世の中のトレンドを知ることができるBtoCビジネスに関心がありますが、弊社のファンド投資の観点ではキャピタリスト各人のケイパビリティと世の中の潮流をもとにそのハイブリッドで投資領域を選定しています。もちろんWeb3.0やクリプト(Crypto)などの大きなトレンドにも注目していますが、弊社のファンドでは特定の領域に特化した投資戦略は取っておらず、キャピタリストの個性を活かし、良い意味で網を広く張ったソーシングをしています。もちろん各領域の専門的な視点を蔑ろにすることはなく、チームや外部専門家の集合知による丁寧な投資検討を行っています。
また、ゴールドラッシュ時代のジーンズではないですが、ライフサイエンスやサイバーセキュリティなど、ヘルスケアや社会インフラを支える根幹をなす技術やサービスについては引き続き私個人としても注目し続けたいと考えています。一方でこういった領域はファンド投資においてはボラティリティが大きな分野でもありますので、行政や業界とも連携し、エコシステムの構築も含めた環境を整えていくことで投資のパフォーマンスにも繋げていければと思います。
一方で、テクノロジーをビジネスに昇華していくうえで、研究者と起業家のマッチングにも業界的な課題があります。例えば、大学発のスタートアップが注目されていますが、研究者はライセンスや技術があるものの経営ノウハウが足りなかったという課題をVCがサポートすることで新たな事業を創出することに繋がっています。過去には弊社出身メンバーが独立し、大学と連携しマテリアルの分野で起業し、大きな資金調達に成功した事例もあります。
今後の展望
VC業界で働いている理由と繋がりますが、VC産業のインフラ整備を行いたいと思っています。日本にも多くのVCがありますが、そこに関わるほとんどの人材がキャピタリストとして社会課題を解決する企業への投資/支援をしたいという人で、VCでバックオフィスをやりたいという人はあまりいないと感じています。ファンドのバックオフィスで専門性を追及したい人はPEファンドにいくでしょうし、安定性を求める人は大手の事業会社に行ってしまうので、あえてVCに入って来る人はかなり希少です。このことがVC産業を拡大していくうえでのボトルネックの一因となっていると感じています。
これまでのVCはキャピタリストのチームアップが重視されてきましたが、今後トップランナーを目指すにはバックオフィスの部分も重要になってきます。いわばスタートアップ企業のコーポレート部門と同じように投資活動を充実させるためのインフラづくりを担う人材が必要です。ファンドコントローラーのロールモデルがあるわけではありませんし、組織が充実してくれば各々が各分野の専門性を追求していくのがいいと思いますが、現在の弊社の組織体制で言えば、コントローラーとして究極のゼネラリストを目指したいと考えています。
初めてVCの世界に足を踏み入れた2010年頃、大企業でも出世できるような非常にポテンシャルの高い人たちが起業家やキャピタリストとして活躍していることにとても衝撃を受けました。一方で、そんなポテンシャルの高い人たちがリスクを負って取り組んでいる社会的意義のある活動を支援する人や仕組みが全く足りていないことにも驚かされました。
起業家がいくら優秀とはいえ非常に難しいチャレンジをしているので、そこで事業だけではなく経営や財務、法務に関わるところまで抱え込むのは大変です。そこでファンドコントローラーが貢献できるのではないかと思っています。もちろんキャピタリストが事業面や経営面を中心に支援しますし、より専門的な部分は弁護士や税理士に頼ることになりますが、日常的に発生する業務には割と多くの落とし穴があり、その落とし穴にはまることなく事業に集中できる環境づくりをサポートするのもシード期には重要だと考えています。財務や法務など経験や知識のカバレッジを広げ、相談を受けたことになんでもソリューションが提供できる存在になりたいと思っています。
興味があるもの
今は引退していますが、社会人まで陸上をやっていたので、体を動かすことは好きです。最近はもっぱら観る方で、地元のバスケチームを応援しています。休日は家族で出かけてショッピングや食事、アミューズメントを楽しむことが多いです。映画や読書も好きですが、一番関心が高いのはVCですね。
編集後記
過去に多くのピッチイベントを行っていた同社は、2019年に移転したオフィスビルでは佐藤可士和氏に内装デザインを依頼し、いつでもイベントができるイベントスペースも設けていました。スタートアップ業界はもちろん、VC業界を盛り上げようとする久保氏の今後が楽しみですね。
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