2020.10.22
何か新商品を開発しようということになりますと、
そこにマーケットがあるか、支持されるコンセプトやデザインか、
値段はどうだ、機能はどうだと、所謂4Pを固めに入る訳ですが、
やはりヒットする/しない(言わば、当たる/はずれる)と
表現しますされますように、中々向う見ずな商品開発は行いにく、
何かしら思い切って突き進められる”保障”が欲しいとなるのが、
大半の心情なのではないかと思います。
特に大きな企業になればなるほど、この”保障”を獲得することに躍起になります。
一つの理由としては、コレを発案して市場へ投入していくのは”現場”な訳でして、
「はずしたくない・・・」というプレッシャーと、
少なくとも企画部長>担当役員>代表役員と3つの判子が必要な訳でして、
これらの判子を「押させるため」の数字・ファクト・ロジックが要りようなのです。
おちまさとさんの著書で言うところの、
いわゆる”鉄板病”です。
過去関わったさ某大手製薬会社の事例を見てみましょう。
結論から言いますと、丁寧に丁寧に”判子を取る為の”調査を繰り返し行いまして、
最終POP実地調査が完了したのは、マーケット調査から実に2年弱経過しておりまして、
発売開始に至りましたのは着手から約3年半経った頃でした。
残念ながらこの商品(低カロリー系のゼリーだったのですが)
見事販売開始から半年弱で闇に葬られました。
(僕は途中から引継いでいます)
マーケット調査>コンセプト・キーワード支持調査(マクロ)>
コンセプト・キーワード調査(デプス)>機能試験(モニター)>
機能試験2(モニター)>POP実地調査(モニター)>POP実地調査2(モニター)
こんな感じの流れで調査と改良を繰り返して行きました。
当然、マーケット調査を行った際に見えていた市場と競争優位性というのは、
当該市場が存在すればするほど、経時とともに小さくなっていきます。
市場の嗜好が変わってしまう(パラダイムシフトする)ことだってあり得ます。
ちなみに、この会社の開発が全て同じ手順かというと、そうではありません。
マーケット確認のデスクリサーチと営業部へのヒアリングだけ行って、
構想から1年程度でセールスインする商品もざらにあり、
意外とそういう商品の方が当っていたりします。
(ピップマグネループやスリムウォーク何かはコッチのグループです)
寧ろ上記の方が極端なケースだったりもする訳ですが、
後々、僕が退任する際に開いてくれた先方の懇親会の席で、
関係者の方へ上記ゼリーの件を話してみますと、
「アレは途中から調査の目的が内部交渉に変わっちゃったからな・・・
で、調査費用だけでもそこそこ投資していたから
(僕が請求したのが期間中500万くらいだから、
グロスで800-1,000万位かな・・・)引くに引けなくなった。
ブラマネ(ブランドマネジャー)も若かったから、
自信持って押せなかったんだよな。。」
としんみりしてしまった次第です。
リサーチというのは時に必要ですが、あくまで必須ではありません。
特にリサーチのfor whatが内に向いたりするのでは、
概ねその顛末は上記ゼリーの例と大差ないと思います。
確かにリアルな商品は、開発しマーケットに出ていくと、
おいそれとマイナーチェンジやパッケージ等のデザイン修正というのは
コスト面だけ考えても行いにくいものです。
さらに言えば、マイナーチェンジが行えるのは売れているからという
事でもありますし、それゆえ鉄板病を患ってしまうというのも
分からない話ではありません。
では、どういったリサーチは必要か?という話になりますが、
僕の考えは次のようになります。
■マーケット有無の確証
絶対に必要なのは、マーケットが在る事を確認するということです。
マーケットを創るという場合においても、
どこかのマーケットからリプレイスさせるという場合が殆どでしょうし、
類似する市場というのは”ほぼ”必ず存在します。
例えば、『どこでもドア』を開発出来る可能性が生まれてきた際、
対象となるマーケットとして想起できるのは、
“移動”に纏わる市場、つまり旅行や公共交通などが、
リプレイス対象のマーケットとなる訳です。
これらは概ねデスクリサーチによるオープンソースから拾えます。
但し長くとも直近2年以内のデータでなければ、
浦島太郎状態になってしまうこともあるでしょうから注意が必要です。
国立図書館などに行くと、一般の書店で売っていない総務省や
第三者機関の統計本があったりしますので、それらを活用するのも有効です。
要は自分たちが投じようとしている商品がどの市場に位置するのか
理解できていなければ、4Pのどれも把握できませんからね。
ただそこから先・・・つまりデザインコミュニケーションだったり、
コンセプトメイクだったりといった部分は、
それらのプロが介在するわけですから、調査という麻薬に溺れることなく、
自信を持って進めるべきです。
■機能試験・安全試験・耐久試験
これは非常に重要です。
お客様に提供される基本的な価値は、『機能的・物理的価値』と
『情緒的・感覚的価値』で形成されます。
後者は前述の通り、大概はマーケットにその解を委ねるものではありません。
(し、その解を持っている訳でもありません)
しいて言えば、その筋のオピニオンリーダーを身近に置いておき、
意見や感想を聞いてみるくらいのことで結構。
但し前者は、デプスインタビューや第三者機関による試験を
最低限経ておく必要があります。
耐久性はどうか?経時変化はどうか?
お客様の安全性は担保されているか?
謳っている機能的な特徴(価値)は実現されているか?
といったことは当然オープンソースには存在しませんし、
ここがOKラインになっていなければ、そもそも商品として成立しません。
余談ですが、PICSでも協力してもらいましたが、
飲食店や食品なんかの”試食”というのも、この枠にあたります。
■投資機関・金融機関等、第三者のパーミッションが必要な場合
例えばそのプロダクトを本生産する際、また工場のラインを新設する際など、
身銭では手が出ないけれども、原資があれば実現できるという場合、
ファイナンスを行います。
エクイティ(出資)の場合もデッド(融資)の場合も、
交渉相手は”そこに可能性を見出していない第三者です”。
その人たちに、「これは賭けないと損だ!」と思ってもらう
必要があるわけですから、よりタイムリー且つ正確で説得力のある
『数字・ファクト・ロジック』が必要になります。
モノづくりとリサーチ。
事業やサービスとリサーチとも置き換えることが出来ますが、
重要なのは、そのリサーチの矛先がどこに向いているかという事と、
“鉄板病”に蝕まれるほどに、リサーチという麻薬に侵されてはいけない
(麻薬に手を出してしまうような開発環境を生まない)という事です。
IPPO中川